毒に対する耐性

よく、「毒のあるものでも体に少しずつ長く入れ続けるとその毒に対する耐性ができますか」という質問を受ける。たぶん、ものによってはそのような毒もあるかと思う。

もちろん個人差はあると思うが、アルコールに対する耐性ももしかしたら、何らかの影響で上がり、酒に強くなるようなことが起きることはありうるかもしれない。しかし、このことは単に飲み方の上達(落ち着いてゆっくり飲むようになるなど)によるものかもしれない。

砒素化合物のような体内に溜まっていく性質の金属毒については、耐性が現れるとは思えない。これに対して、毒と言えるかどうかではあるが、たとえば、辛いものについては耐性ができてくるようで、だんだんと激辛でないと満足しなくなるような方もいるようだ。

さらに、覚醒剤についてはだんだんと量を増やさないと予期していた効果が出なくなるということが知られているので、明らかに耐性が上昇するのだろう。種々の睡眠導入剤などにもこのようなことは言われている。

この世の中には、食養において「身土不二」という言葉があって、その土地、その季節の食べ物が体に合うという考えらしい。暖かい地方産のものは体を冷やす性質があるのだそうで、たとえば、暖かい地方で産する砂糖や、柿、苺などにはそのような作用があるという。

南米のボリビアは高地にあることから高山病にかかることがあるという。この症状にとてもよく奏効するのがボリビアに産するコカの葉をお茶にしたコカ茶であった。これもまさに身土不二の好例ではなかろうか。

コカ茶にはもちろん現在麻薬に指定されているコカインを含むが、コカからコカインが純粋に分離される前の、当地のコカ茶のような使い方では問題になることはなかったようである。

結局、ヒトは少し毒のあるようなものが好きなのではないかと思われる事象にもよく遭遇する。そのようなものの代表としては各種のお茶についても言える。紅茶や緑茶、コーヒー、ココアにはいずれも弱いながらも確かな毒性のあるカフェイン類のアルカロイドを含むからである。

日本人はいかにして毒と薬を食べてきたのか?
船山信次
日本人はいかにして毒と薬を食べてきたのか?
2026/1/21
1,595円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4065423431

毒と薬に違いは無い。

普段食べている塩は生きる上で必要な食材ですが、過去には食べ過ぎによる死亡事故が報告されています。ビタミンが豊富で体にいい果物でも、食べ方によっては有害な作用を及ぼすものもあります。このように、飲食物が毒であるか薬であるかはその結果のみで考えられます。薬学博士で日本薬史学会会長の著者は、薬学の視点から口にした物の効果、さらには過去にも遡り日本での薬の歴史から食に関わる事故について経験談を交えながら紹介します。食の安全から毒に関心のある人までこの一冊に。

*以下、本書目次より抜粋
はじめに

第1章 毒とは何か薬とは何か、そして食べ物との関係
第2章 食べ物の歴史と地理と文化
コラム 世界四大矢毒文化圏
第3章 毒のある食べ物
コラム 暗殺と毒
第4章 食べ物と薬
コラム 健康食品と医薬品
第5章 嗜好品と人間
第6章 食べ物に関する論争そして地球環境と食べ物
コラム 人類と地球環境

おわりに

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