BTSはおそらく、狙いを定めて的を射抜いた

ところで、じつに興味深いのは、ピンク・レディーの「Kiss In The Dark」が1979年5月1日、YMOの『Yellow Magic Orchestra』が1979年5月30日と、同じ年の同じ月にアメリカでリリースされていたという事実です。もちろん両者の世界デビューにはそれぞれのプロセスがあり、何の関連性もない、単なる偶然なのですが。

そして、これも偶然ですが、アメリカの社会学者エズラ・F・ヴォーゲルが著し、日本語訳もベストセラーになった『ジャパン アズ ナンバーワン(Japan as No.1: Lessons for America)』も、1979年5月に原著が出版されているのです(日本語版も同年に出ています)。

同書でヴォーゲルは「日本的経営」の特質を分析し、たった30年でアメリカを脅かすまでに躍進した日本の経済成長の秘密を解き明かそうとしています(ちなみにヴォーゲルは東アジアが専門で、中国にかんする著作もあります)。偶然とはいえ、西欧世界における日本への注目が、さまざまな次元で急速に増していた時期だったということは言えるかもしれません。

1963年の「SUKIYAKI」から57年(!)後、BTSが「Dynamite」でアジア人アーティストとして二度目のビルボード「HOT 100」1位を獲得、これは英語曲でしたが、同年に「Life Goes On」で韓国語曲で史上初の1位をマークしました。

2017年のビルボードアワードで「Top Social Artist」を受賞したBTS 写真/Shutterstock
2017年のビルボードアワードで「Top Social Artist」を受賞したBTS 写真/Shutterstock
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半世紀以上、アジアの誰も頂上まで登り詰めることがかなわなかったわけですが、「Kiss In The Dark」の37位も、けっして悪い順位ではありません。しかし次のことは言えます。坂本九は幸運だった。ピンク・レディーは健闘した。YMOは逆輸入された。

しかしBTSはおそらく、狙いを定めて的を射抜いたのです。

メイド・イン・ジャパン 日本文化を世界で売る方法
佐々木 敦
メイド・イン・ジャパン 日本文化を世界で売る方法
2025年11月17日発売
1,034円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721387-4

戦後、日本の文化は海外での成功を夢見てきた。音楽や映画、文学、演劇の世界で、世界的な知名度を得ている作家や作品はあるものの、日本カルチャー全体が「輸出商品」として盛り上がっているとは言い難い。
日本文化が全世界的に流行する日は来るのだろうか。そのための条件とは一体なにか。
K-POPの成功に学ぶ戦略、英語という壁、外から見出される「日本らしさ」、そしてローカル性と普遍性のせめぎ合い――。
NewJeansやXG、村上春樹や多和田葉子、濱口竜介や是枝裕和、岡田利規など、さまざまな作品を通してグローバル時代の日本文化の可能性を問い直す。

【目次】
序章 「日本/文化」の条件

第一部 日本文化はどう輸出されてきたか
第一章 「英語」の乗り越え方 ──K-POPは世界を目指す
第二章 日本文化と英語化 ──ニッポンの音楽は「世界」を目指す
第三章 ニッポン人になるか? ガイジンになるか? ──XG vs. Idol
第四章 「輸出可能」な日本らしさ ──GAKKO!・白塗り・ノスタルジー
第五章 外から見出される「日本らしさ」 ──テクノ・ジャポニズム
補論 「洋楽離れ」から遠く離れて

第二部 日本文化はどう世界に根づくのか
第六章 日本文化の「あいまい」さ ──川端康成vs.大江健三郎
第七章 日本文学が海を越えるには ──村上春樹がノーベル文学賞を獲る日
第八章 ローカルな普遍性はどう生まれるのか ──是枝裕和と濱口竜介
第九章 ローカルから「世界」を描く ──チェルフィッチュの「日本」
第一〇章 言語の越え方 ──チェルフィッチュの「日本語」

とりあえずの終章 日本文化はどこにいくのか?

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