偽りのポジティブ思考はやる気を奪うだけだった? 最新研究でわかった“前向き神話”がもたらす2つの副作用
ポジティブな言説や思考法を無理やり信じこもうとすると、いつしか自分を縛る“呪い”になることがある。最新の研究結果では集中力や実行力が落ち、恋愛やダイエットも失敗しやすくなるという報告まで出ている。では、私たちはどのようにネガティブな感情と向き合えばいいのか?
社会に蔓延する“呪い”の言葉を分析した『社会は、静かにあなたを「呪う」』より一部抜粋、再編集してお届けする。〈全3回のうち1回目〉
社会は、静かにあなたを「呪う」#1
ネガティブな感情を堪能する
具体的な手順は、ネガティブな感情を感じたら、まずその感覚を無視したり抑えつけようとせずに、まず「いま私は何を感じているのか」をじっくり観察する。
その感情によって体にどのような変化が起きているのか、その感情の強さに点数をつけるなら何点か、その感情に形や色があるとしたらどう表現できるかなどを考え、ネガティブな感情が自分に与える影響を、ひとつずつ丁寧に確かめていく。
たとえば、職場で理不尽な扱いを受けて怒りを覚えたなら、「この感情によって自分に何が起きているのか」と自分に訊ねてみる。そのうえで、胸や頭のあたりがこわばっていないかをチェックしたり、「この感情の強さは100点満点で言えば60点だ」や「怒りが赤黒い煙のように渦巻いている」といったように感情を言葉に変え、"怒り"をそのまま観察してみるわけだ。
怒っているイメージ 写真/Shutterstock
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先述の実験データによれば、この作業を行った参加者は受容傾向が高まり、気分が改善するケースが大幅に増えたという。ネガティブな感情を抱くのは人間にとって自然なことであり、それ自体は問題でない。
決して感情を抑え込まず、その代わりに「また怒りが出てきた」ぐらいに受け止め、ネガティブな感情が自分に引き起こした変化を味わったほうが、実は心の柔軟性は高まる。感情の堪能とは、そういう意味だ。もちろん何事も言うは易しで、ネガティブな感情を簡単に堪能できる人は少ない。慣れないうちは、すぐに不快さから逃れたくなったり、いつものように気持ちを抑えつけたり、感情に流されるまま怒りを人にぶつけたりしたくなるだろう。
しかし、感情の堪能を何度も実践し続ければ、最初は不快だった感情がやがて味わい深さに変わる。そこには、「気分がいい」というだけの幸福ではなく、「自分の人生を生きている」という実感が生まれるはずだ。
#2に続く
文/鈴木祐 写真/Shutterstock
社会は、静かにあなたを「呪う」: 思考と感情を侵食する“見えない力”の正体
鈴木祐
2025/8/26
1,980円(税込)
256ページ
ISBN: 978-4778036515
【社会の「呪い」を検証する】
ネットニュースやSNSで以下のようなメッセージを耳にしたことはないだろうか。
「日本はオワコン」「人生は幸せになるためにある」「やりたいことを仕事に」「資本主義ゲームや競争から降りよう」「この世は親ガチャで決まる運ゲー」
本書における“呪い”とは、このような気づかぬうちに私たちの思考と行動を縛り、時に重圧を与えてくる言葉を指す。しかし、全て“根拠のない思い込み”だとしたら、どうだろう。
人気サイエンスジャーナリスト・鈴木祐氏が、データ&エビデンスをもとに呪いの真偽を徹底検証! いま明かされる「あるべき論の偽り」とそれに踊らされる「人間心理のメカニズム」 。私たちは言葉とバイアスが作る“透明な牢獄”から抜け出せるか。
経済や幸福、働き方、遺伝と才能―現代人が信じ込んできた“正しさ”を、鈴木氏が鮮やかなまでに撃ち砕く。思い込みから脱し、真に自由になるための書がここに誕生。
<本書で検証する主な「呪い」>
・日本は、少子高齢化で未来がない
・人は幸せになるために生きている
・もう経済成長はいらない
・情熱を持って仕事に取り組め
・人生は遺伝で決まるetc.