「他人の目など気にせず、自分らしくしろ」

幸せな人生の処方箋として、「他人の目は気にするな」や「自分らしくあれ」といったアドバイスが提案されることがある。

「自分が信じた自分で生きていけばいい」

「他人を気にせず、常に自然体で生きよう」

「他人にどう思われるかを基準にするな」

これらの言葉に共感する人は少なくないだろう。長い人生のなかでは、自分を押し殺して他人の期待に合わせねばならない場面が無数に存在する。仕事で無理に笑顔を浮かべたり、クレーマーへの反論を飲み込んだりと、他人の目を気にして素の自分を偽った経験は誰にでもあるはずだ。

そんな経験が重なれば、"ありのままの自分"で生きたいと思うのは自然だ。

ありのままの自分のイメージ 写真/Shutterstock
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実際のところ、素の自分を隠すことの悪影響は複数の調査で示されている。たとえば、社会学者のアーリー・ホックシールドは、航空会社のCAたちの労働環境を調べ、こんな結論を出した。

「表面的な感情労働を長く続けると、心理的ストレスや身体的な問題が起きやすくなる。特に、自分の内面と外面の感情が離れているときほど、免疫システムの不調、慢性疲労、うつ状態、頭痛、胃腸の障害などが増える」

「感情労働」とは、本心とは異なる感情を演じ続ける状態のことだ。CAの仕事では、客から嫌なことをされたとしても、疲労でやる気がわかないときでも、温和な態度を維持しなければならない場面が多い。そのせいで自分の内面と外面に不一致が起き、そのストレスが心身のトラブルを引き起こす。

テキサス大学などの調査でも似た現象が報告されており、研究チームが学生たちに「過去の嫌だった体験」の話をさせたところ、自分の感情を素直に表現するのがうまかった者は、そうでない者よりも免疫機能が改善し、病気にかかる率が低下したという。これらのデータからも、仮面をかぶり続ける生き方がよくないのは確かだ。

が、なにごとにも例外はあるもので、「自分らしくあれ」というアドバイスには、次の問題がある。