ロシア軍の残虐行為や政権批判が報じられることは一切ないロシア

何が真実か分からない状況に置かれている典型的な実例が、ウクライナに軍事侵攻した現在のロシアに住む人々だろう。私が直接取材したわけではないが、共同通信のこれまでの取材結果を総合すると、ロシアではこんな状況になっている。

「ロシア当局は、政権に都合の悪い報道を『偽情報』とみなし、広めた者に懲役刑を科す法律を整備し、リベラル系ラジオや独立系メディアは解散や停止に追い込まれた。国営テレビは愛国心や米欧への敵対心をあおり、露骨な世論誘導を続ける」(2022年5月2日配信)

「テレビ、新聞など有力メディアの経営権を政権寄りの財閥や富豪に握らせ忠実な編集長を任命したり、政権に反抗的な報道機関を弾圧したりして、国内メディアを完全支配下に置いた。政権の息のかかった編集長に反発した記者たちは編集部を去り、新たにネットメディアを立ち上げたが影響力は限られていた。メディアの自由度を見守る非政府組織(NGO)によると、22年2月のウクライナ侵攻以降、プーチン政権は200以上の独立系メディアを弾圧し、サイトを閉鎖した。ロシアの主要テレビ局は、朝から晩までウクライナ侵攻を巡り政権のプロパガンダを垂れ流している。ロシア軍の残虐行為や政権批判が報じられることは一切ない」(2023年10月18日配信)

こうした状況下で、プーチン氏は高い支持率を誇っている。ロシアの人々は何が真実なのか分からなくなり、その結果、自分が信じたいものだけを信じるようになっているのではないか。時の権力からつけ込まれやすくなっているのは、信頼できる一次情報に、ロシアの人々が簡単にアクセスできないからだ。

アメリカでドナルド・トランプ氏を熱狂的に支持する「MAGA(マガ)」と呼ばれる人々も、似たような状況と言えるかもしれない。共同通信が配信した2024年3月6日の記事のうち、関連する部分を要約すると次の通りになる。

「トランプ氏はこれまで自身への批判には一切耳を貸さず、否定的に報じるメディアは『フェイク(偽)ニュース』と非難。敗北した20年の前回大統領選は不正だったと根拠のない陰謀論も唱え、議会襲撃で起訴されたことは『魔女狩り』だと反発した」

MAGAもトランプ氏が唱える陰謀論を信じている。

写真/Shutterstock
写真/Shutterstock
すべての画像を見る

アメリカには当然、一次情報を報じ続けるメディアも多く存在する。たとえばCNNはトランプ氏の発言が事実かどうかを検証して報じる「ファクトチェック」を続け、発言が多く虚偽であることを確認している。

問題は、MAGAがそうした報道を信じようとせず、見向きもしないどころか反対に、こうした報道を「フェイク」と根拠もなく言い続けるトランプ氏の言葉を信じ続けることだろう。

アメリカの状況からも、民主主義が危うい様子が読み取れる。

写真/shutterstock

新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと
斉藤 友彦
新聞記者がネット記事をバズらせるために考えたこと
2025年2月17日発売
990円(税込)
新書判/240ページ
ISBN: 978-4-08-721350-8

共同通信社が配信するウェブ「47NEWS」でオンライン記事を作成し、これまで300万以上のPVを数々叩き出してきた著者が、アナログの紙面とはまったく異なるデジタル時代の文章術を指南する。
これは報道記者だけではなく、オンラインで文章を発表するあらゆる書き手にとって有用なノウハウであり、記事事例をふんだんに使って解説する。
また、これまでの試行錯誤と結果を出していくプロセスを伝えながら、ネット時代における新聞をはじめとしたジャーナリズムの生き残り方までを考察していく一冊。

◆目次◆
第1章 新聞が「最も優れた書き方」と信じていた記者時代
第2章 新聞スタイルの限界
第3章 デジタル記事の書き方
第4章 説明文からストーリーへ――読者が変われば伝え方も変わる
第5章 メディア離れが進むと社会はどうなる?

amazon 楽天ブックス セブンネット 紀伊國屋書店 ヨドバシ・ドット・コム Honya Club HMV&BOOKS e-hon