ウイスキーにコーヒーを
── 舞台となるバー〈のちえ〉も魅力的です。作中では、空白と古戸馬が度々訪れ、常連になっていきます。モデルになったお店はあるんですか?
いや、ないんです。住んでいる高松には、半空とか、いいバーがいっぱいあるんですけどね。お酒は毎晩吞みます。ちょっと変わった飲み方なんですが、まずウイスキーを一、二センチ入れて、そこにインスタントコーヒーの粉をちょっと足して、炭酸水をふわーっと注ぐ。そうすると黒生ビールっぽいけど、引き締まった味で、なおかつあんまりカロリーが高そうじゃない。できればバーボンが理想です。
── ご自分でレシピを作られたんですか?
変な実験が好きなんです。書いている時に空腹を感じて、なおかつコーヒーが飲みたい時は、チキンラーメンを粉々にしてコーヒーの中にばーっと入れたりもしますね。何やってるんだろうって、後で自分でも思いますが。
── おいしいんですか?
分からないですね。味は本当に分からない(笑)。〆切前はよく食べてます。家族はそういう時は別で、ちゃんとしたご飯を食べていますよ。普段の食事は全部僕が作っていますが、〆切前だけは妻にお願いして、家族の分は作ってもらってます。〆切前以外は、家事と育児がありますから、とにかく書ける時間は全部書く、という感じです。
── 今後はどういう作品を書いていきたいですか?
この二、三年で、数学的な書き方を発見し、なおかつショートショート集を書いた際に、物語のひっくり返し方など構造の部分から理屈で考えるということを徹底してやっていったら、小説を書くのが楽しくなってきたんですね。
今まで、そんなにミステリーが得意じゃないのに、恋愛ミステリーでデビューしてしまったので、四苦八苦していました。作中で人も殺せなくて。去年『切断島の殺戮理論』を出すまではちょっと殺すと「森さんが殺人はちょっと……」みたいな声があがったりして。殺せたほうが楽なのに、みたいな(笑)。
── 縛りが多かった。
はい。ただ、一回、構造をじっくり考えたら、そこさえ守れば小説ってもっと自由なもんじゃないかというのが見えきて。それで大分呼吸がしやすくなりました。
『虚池』に関しても、たった一言から推理する、それを六話全部通してやるというのは、ある種、過剰かもしれませんが、自分の限界を突き破るためには、この過剰さというのが必要だろうなと思って、意図的にやってみました。それで思ったのは、このパターンが一番自分には合っているんだなと。自由律じゃないですけど、推理小説ってこんなに自由なものだったんだというのが再確認できた作品です。これからも自由に書いていきたいですね。