2020年代に時給1500円の実現を掲げるが… 

政府は2029年度までの5年間で、日本全体で年1%程度の実質賃金上昇を定着させる「中小企業・小規模事業者の賃金向上推進5か年計画」をまとめた。石破政権が掲げる「2020年代に時給1500円」を実現するための政策だ。

政府は賃上げ支援を目的とした補助金や助成金を用意し、中小企業を中心にバックアップしている。しかし、5年ほどで時給1500円まで引き上げるには毎年89円引き上げる必要があり、簡単な目標ではない。過去最大の引き上げ幅は51円だ。

5年で時給1500円まで引き上げることは可能か…
5年で時給1500円まで引き上げることは可能か…
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企業が収益性を高めるには価格転嫁が重要だ。実際、大手企業は値上げによって好業績を維持している。一方、価格交渉力が弱い中小企業が価格転嫁を行なうのは容易ではない。

東京商工リサーチの調査のように、雇用や人件費を抑えて何とか事業を継続しようと考える経営者が多いのが実態だ。しかも、トランプ関税に至っては大手自動車メーカーでさえ価格転嫁できていない。

日本政府はトランプ関税の一件で、重要な輸出産業を守るという強い姿勢を示すことができなかった。その中で実現可能とは思えない賃上げ策を掲げたところに、石破政権の無策ぶりが見てとれる。

国内消費を支えて需要を喚起するなど、別角度の取り組みも必要になってくるのではないか。アメリカとの交渉の長期化は、企業を疲弊させるだけだ。

取材・文/不破聡   写真/shutterstock