「諦めずに頑張れば、逆境から立ち直れることを人々に知ってほしい」
マーケット違いやファン離れについて懸念するレコード会社の意見を無視してでも、レイは自分が本当に突きつめたい音楽に向かって進んでいった。そうやって自力で大きな成果を挙げたのだ。
そんなレイは7歳の頃から少しずつ視力を失い、10代になって失明したことを忘れてはならない。彼の半生を綴った映画に『Ray/レイ』(2004)がある。
監督のテイラー・ハックフォードは、レイからこう言われたという。
君はどんな話を伝えてもいいし、私をどのように見せても構わない。でも、真実を語らない事だけは許されない。それは正しい事ではないからね。
映画で描かれるのは、音楽だけではない。南部での母子家庭の貧困、少年時代に起こる弟の死とトラウマ、そして運命の失明。あるいは人種差別、麻薬中毒、女性問題、音楽ビジネスの闇など、あらゆる真実を我々は知ることになる。
私が小さい頃に体験した試練や苦しみ、長年に渡って起きたあらゆる事柄を人々に分かってほしい。自分がどこへ行きたいかを知っていて、諦めずに頑張れば、逆境から立ち直れることを人々に知ってほしい。何度かノックダウンされたからと言って、諦めてはいけない。
そんな中で挿入される母親との回想エピソードが感動的だ。レイは何か辛いことがあると、いつも死別した母親の言葉を想い出した。心に刻んで忘れなかった。
盲目だからといって人からお情けをもらうのではなく、どんな時も二本の足で立てる人間になりなさい。
レイ・チャールズは、2004年6月10日に73歳で亡くなった。同年8月には、おそらく最後になること予感しながら録音した遺作『Genius Loves Company』(ノラ・ジョーンズ、ボニー・レイット、ウィリー・ネルソン、ヴァン・モリソン、エルトン・ジョン、B.B.キングら12人とのデュエット)がリリースされて大ヒット。映画『Ray/レイ』は同年10月に公開された。
文/佐藤剛、中野充浩 編集/TAP the POP
参考・引用
『我が心のジョージア〜レイ・チャールズ物語〜』レイ・チャールズ&デイヴィッド・リッツ共著/吉岡正晴訳(戎光祥出版)、『Ray/レイ』パンフレット