部屋、一門、相撲協会という三重の入れ子構造
しかも背景には、やはり組織の閉鎖性がある。力士のなかでもいわゆる「たたきあげ」組は、中学を卒業したばかりの、まだ十分な社会経験も判断力も備わっていない段階で入門する。
入門するといずれかの「部屋」に属し、親方やほかの力士たちと一緒に集団生活を送る。よほど特殊な事情がないかぎり、ほかの部屋に移ることは認められていないので、各力士は入門した部屋で力士生活を終えるわけである。
さらに大相撲の世界には、部屋どうしの師弟関係を中心にした「一門」があり、現在、伊勢ヶ濱一門、二所ノ関一門など5つの一門が存在する。歌舞伎の一門と似ており、役員選挙などの際に数の力を発揮するという点では自民党の派閥とも共通するところがある。このように大相撲の世界は、部屋、一門、相撲協会という三重の入れ子構造になっている。
相撲は「神事」(否定する説もあるが)とされ、大相撲は江戸時代以来の歴史を持つことからも想像できるように、日本型組織の特徴を最も凝縮した形で体現している。そこで部分的にせよ組織の崩壊をもたらすような不祥事が発生したことは、日本型組織のあり方そのものが問われているとして深刻に受け止めるべきだろう。
もっとも不祥事そのものはいまに始まったことではない。前述した横綱による暴力事件のほかにも、2007年には時津風部屋で起きた力士の暴行死、2010年には年寄株の不透明な売買疑惑、2011年には力士による八百長問題が発覚するなど、この世界の異常な体質をうかがわせる出来事がたびたび発生している。
そして、そのたびに大相撲界の閉鎖的で不透明な体質が問題視された。
そこへ近年になって、公益財団法人である協会に対し外から厳しい目が向けられるようになったわけである。しかし内部から改革を唱えた親方が逆に孤立するなど、闇の深さもまた印象づけられた。
そのことは日本型組織の改革もまた、一筋縄ではいかないことを示唆しているように思える。
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