金鉱山より金が採れる
下水処理場は金鉱山より金が採れる。
そんなバカなと思われるかもしれないが、国内外で真剣にこうした金の“採掘”やその検討がなされてきた。
2015年には、アメリカ地質調査所の研究チームがアメリカ化学会の大会で次の発表をした。
下水汚泥に金鉱山の採掘に見合う水準で金が含まれ、銀やプラチナも含まれる。消臭剤など日常生活の至るところで金属が使われているため、下水にはナノレベルの金属類が流入する。下水が貴重な資源になるというこの発表をアメリカの雑誌『TIME』をはじめとするメディアが驚きをもって伝えた。
世界の主たる金鉱山では、1トンの鉱石に3〜5グラムの金が含まれているが、下水処理場から出る汚泥に金鉱山の採掘基準を超える量の金が含まれることがしばしばある。
過去の話だが、横浜市の場合、工場排水のみを受け入れる処理場から出る脱水汚泥に、1トン当たり3.3グラム以上の金が含まれていた。メッキ工場などから流入したとみられ、銀に至っては33グラム以上含まれていた。それで、2014年から、それまで埋め立て処分していた脱水汚泥の売却を始めた。
2007年、長野県諏訪市の下水処理場から出る汚泥やそれを燃やした灰に、平均的な金鉱山を超える含有率で金が含まれていると判明した。流域に精密機械の工場が多く、金メッキといった用途の金が流入したらしい。
そこで2008年から灰の販売を始め、年間4000万円を売った時期もあった。その後、排出源になっていた工場が排水に気をつけるようになり、金が採れなくなったため、2020年に販売をやめている。
家畜と人の糞尿でリン酸肥料を賄える
年間約8000万トン、容積に直すと東京ドームで75杯分排出される家畜糞尿にはリン酸が20万トン強〜40万トン強含まれると見積もられている。
下水汚泥には12万トン近く含まれるとされる。年間に施肥されるリン酸肥料は35万トン前後だから、家畜糞尿と下水汚泥に含まれるリン酸を足すと、その必要量を上回る。
現実には、その全量を肥料に回すことはできない。それでも、肥料化に真面目に取り組めば、輸入への依存度を大幅に下げることができるのだ。
文/山口亮子 サムネイル/Shutterstock