米国による経済制裁のゆくえ
中国経済の未来を考えるうえで、米国による経済制裁も大きな影響をもたらす要因となる。ここではもっとも代表的な半導体関連に絞って見ていこう。
米国の対中経済制裁は、当初は特定企業を対象としていた。特に知られているのが中国通信機器・端末大手のファーウェイ(華為技術)を対象とした制裁だ。2018年3月、同社製通信機器にバックドア(情報漏洩を目的とした不正プログラム)が仕掛けられているとして、米国の通信網から締め出すことが決定された。
その後、矢継ぎ早に規制は強化されていく。
2019年には米企業の輸出禁止対象となるエンティティ・リストに指定された。翌年にはこの規制措置を拡大し、米企業の技術やソフトウェアを使って第三国で製造された製品も輸出禁止措置に含まれるという、直接製品規制が導入された。ファーウェイが利用していた半導体の多くは台湾で製造されていたが、その設計には米企業のソフトウェアが使われている。そのためほぼすべての半導体が規制対象となった。
制裁が長期化、強化されていく中、中国は国内のサプライチェーンを強化することで、対抗しようとしてきた。中国は製造業大国ではあるが、半導体をはじめとして、一部の重要部品は海外に依存している。
そうした産業は制裁リスクにきわめて脆弱だ。中国社会科学院世界経済・政治研究所シニアフェローの徐奇淵によると、国際的なサプライチェーンが断絶するリスクに対し、どのようにして代替的な供給体制を整備するのかという問題は、中国国内でさかんに議論されてきた(CF40課題組、2021)。
徐らは、電気・電子機器、機械・設備、光学・医療機器といった、特に脆弱性が高い産業では、中国の中西部地区を組み込んだバリューチェーン再構築を検討すべきと主張している。
地域ごとに異なった傾斜税制の導入により、中西部地域への企業投資を促進すること、地元政府が対象産業の育成により積極的になるよう、地方政府のインセンティブと制約のメカニズムを改善することなどが具体的な手段として提言されている。
国際的なサプライチェーンを中国内部で代替する構想は、経済改革プラン「国内大循環」の趣旨とも合致しており、一帯一路などを通じた対外投資資金の縮小、そして産業の国内回帰という「内向き」の姿勢とも共通している。
特に輸出規制における最大の焦点となった半導体について、中国政府は巨額の政府系投資ファンドの設立や補助金、優遇税制などの手段を駆使して、内製化を進めている。米国もこの動きに呼応し、さらに規制を強化した。
例えば2022年8月にバイデン政権は、米国内に半導体工場を建設する企業に補助金を支出する根拠となる法律「CHIPSおよび科学法」を成立させた。同法は、補助金を受ける企業が10年間中国において28ナノ(ナノは10億分の1)メートル未満のプロセス技術を用いた先端半導体を生産できる工場を新たに建設することを実質的に禁じている。