コロナ禍で不足したのは「最先端ではない種類の半導体」だった
半導体不足、というとシンプルな要因に思えるが、実際には多様な現象を指している。
よくある誤解は「PCやスマートフォン、ゲーム機などの需要増加で、最先端の半導体が不足している」というものだ。確かにコロナ禍で需要が伸びて足りなくなった部分はあるが、それだけではないから話が複雑になっている。
実際に足りなかったのは、むしろ「最先端の技術で作られているのではない」ものだった。
例えば一般的な家電や給湯器に使われる半導体は、そこまで複雑な処理を求められていない。だから、最先端の半導体ではなく、コストの安いものが採用される。
そもそも1つの製品には複数の種類の半導体が使われるのが一般的だ。スマートフォンの場合でも、我々が購入するときに気にするのは、処理をつかさどる「プロセッサー」やデータを蓄積する「メモリー」くらいだが、実際には、充電管理用の半導体やディスプレイ表示のコントローラー、タッチパネルセンサーにカメラに使うイメージセンサーと、多種多様な半導体が必要になる。自動車の場合も、別に最先端の運転支援機能を備えたものだけが使われるわけではない。カーナビはもちろん、エンジンや照明の制御に至るまで、多数の半導体が必要になる。
どれも必要な部品なので、1つでも調達できなければ製品が作れない。予定していたメーカーから調達できなければ、同等性能品を別メーカーから仕入れることで対処できるだろうが、その場合にでもやはり設計変更が必要になり、製品投入や製造の遅れにつながる。
今回の半導体不足は、さまざまな事情から「色々な種類の半導体が不足した」ことによって、影響が多角化・長期化したのだ。
指先にのるぐらいの面積に約150億個のトランジスタ
では、なぜ色々な半導体が不足する事態になったのか?
コロナ禍におけるIT機器への需要の拡大があるのは間違いないが、それ以外の要因もあって、事情はさらに複雑化した。
半導体を使ったパーツの処理性能は、ざっくりいえば、半導体内を構成するトランジスタの数で決まる。例えば、「iPhone 13」に使われているプロセッサーである「A15 Bionic」の場合、約150億個のトランジスタが、指先にのるくらいの面積の中に集積されている。
最先端の半導体ほどトランジスタの集積度が高く、製造が難しいのだが、それを実現するノウハウを持っていて、さらに大規模な投資もできる企業は、世界でも数社に限られる。トップを走るのは台湾・TSMCで、さらに韓国・サムスンや米・インテルが続く。特に、半導体の微細化技術でトップを走るTSMCへの依存度は非常に高い。前述の「iPhone」を含めたハイエンドスマホに「PlayStation 5」など、トップクラスの性能を持つIT機器の多くが、TSMCで製造された最先端の半導体を利用している。