「DeepSeek・ショック」とは何だったのか
そしてここでテーク・ノートして置きたいことは生成AIの開発に最もコストがかかることになる「DeepSeek-R1」の“AI学習・AIトレーニング”には、NVIDIA社の高価格で高性能なAI向け最先端半導体のGPU「ブラック・ウェル」ではなく、米国から中国に向けてのAI製品の輸出規制から「型落ち製品」が用いられたことであった。
これは、今まで高性能な新生成AIを開発するにあたっては、高額であっても高性能なNVIDIA社のGPUを使用とすることが必要不可欠であるという世界のハイテク業界の常識が、一瞬にして覆されたのだ。
NVIDIA社の最上クラスのGPUが必要不可欠ではなくなったことで、既存の半導体企業・AI企業の市場優位性が崩壊するリスクとハイテク市場に混乱をもたらすという不確実性が高まった。そのことが「DeepSeek・ショック」を引き起こし、一時的に市場がパニック状態に陥った。
NVIDIA社株の買い持ち高を解消するために株式市場で売りが売りを呼んだ結果、わずか一夜にして株価を20%近くも暴落させたのだ。そしてハイテク市場全体を巻き込んだ急落となったのである。
話はここでは終わらない。
DeepSeek社は、革新的な新生成AIモデルに関して、使用・複製・改変・再配布を自由に許可する寛容なMITライセンス下で、オープンソースとして提供している。これは新規参入してくる企業にとっては、破格の待遇とも言える。まさに無料で技術の門戸を開放したようなものだ。
これによって、将来的に第二、第三の「DeepSeek」が誕生することは、誰の目にも明らかだろう。世界の投資家の見方としては、NVIDIA社に限らず半導体企業全体への投資、ひいては莫大な資金を投入している米国ビッグ・テクノロジー企業であるマグニフィセント7の新商品の希望価格が抑制される圧力によって、資金回収に問題が生じるリスクが顕在化し、収益が圧迫されていくことが予想されるであろう。
結果的に需要の落ち込みが必至となって資金を引き上げるアクションを取らざるを得ないこともあるだろう。なぜならば、マグニフィセント7の株価が既に天井を打ったからに他ならないからである。
NVIDIA社に関しては、2024年11月〜2025年1月期決算の売上高が前年同期と比べ78%増の393億3100万ドル(約5兆9000億円)と好調であり、ジェンスン・ファン最高経営責任者(CEO)は、DeepSeekを意識してか、「論理的に思考する(AIの)モデルは100倍の計算量を必要とする」と説明した。
しかし株価の回復は、期待通りには進まなかった。他のマグニフィセント7の新商品についても、特に目を見張るほどの技術力の進展は見られない。