こども家庭庁の切実な内情
調査のなかでは、「子どもを育てている」回答者ほど、高校・大学授業料について「所得制限を設けず無料」を高く支持していた。税負担増には慎重な考え方が多い一方、「限りある政府の財源は子どもや若者に優先して使うべきだ」という考え方への支持スコアは相対的に高かった。
「税負担を軽くしてほしいという声は大きいですが、だからといって年金制度はいらないと考えているわけではないんです。だからまずは手取りや給料そのものを増やすことが大事。そのなかでも政府が一番手を付けやすいのは、残業代です。
残業代は先進国の多くが平均時給の1.5倍出しているのに比べて、日本は1.25倍しか出せていません。残業代を上げれば、手取りも増えるし、企業も安易に残業をさせなくなって働き方改革も進むと、働き方改革で実績をあげてきた専門家や研究者らが提言しています」
さらに、かつては婚姻数も出生率も高かったが、現代は時代背景的にも若者支援がなくては少子化の改善は見込めないと末冨教授は警鐘を鳴らす。
「かつては中卒・高卒でも稼げる仕事がたくさんありましたが、今は良好な就労を得るために最低でも高卒が求められ、大卒以上ではないと特に男性は賃金上も明確に有利にはなりません。高卒で就職後に職が不安定になり、就活用のリクルートスーツだってろくに買えない若者もいます。若者を公的に支援し未来への投資に繋げることが求められています」
若者支援でいうと、足立区では大学などと連携し、若年層を支援する相談窓口「あだち若者サポートテラスSODA(ソーダ)」を2022年7月にオープン。若者のメンタルケアや生活全般の相談・支援を専門スタッフが無料で行なっている。
しかし、政府の子ども政策の司令塔として立ち上がった「こども家庭庁」にとって、若者支援を実施するのは先送りされそうなのが現状だ。
「『こども家庭庁』は、扱っている予算と政策領域の広さの割に人員がとても不足していて、若者政策のセクションを立ち上げる段階まできていないのが内情です。今後はなんとか人員を増員し、若者支援の部局と審議会を立ち上げ、厚労省はじめ関係省庁と連携しながら若者の悩みや幸せに寄り添う政策を実行していきたいんですが…」
高校の授業料や小中学校の給食費など昨年からさまざまな無償化政策に乗り出した政府だが、働き方改革に若者支援など、まだまだ少子化問題に対して取り組むべき課題は多そうだ。
取材・文/集英社オンライン編集部