「〇〇ハラ」の激増は問題を矮小化してしまう
Aさんのような職場での話声や雑音以外にも、他人がすする麺の音、鼻歌、爪を切る音に悩まされる人も少なくない。
その一方で、あらゆる「不快な音」をハラスメントと定義してしまうと、セクハラやパワハラといった、さらに問題視すべきハラスメントの深刻さが薄れてしまう可能性がある。
『パワハラ上司を科学する』(筑摩書房)などの著者である、神奈川県立保健福祉大学ヘルスイノベーション研究科教授の津野香奈美氏は、こう指摘する。
「本来、ハラスメントとは、職場で発生する敵対的な言動や、就業環境を害する言動をを指します。これは、英語におけるハラスメントの定義とも一致しています。
しかし、現在はハラスメントという言葉の意味が、単なる個人間のトラブルや『ちょっと不快』といったレベルのものにまで広がっている現状には、違和感を覚えます」
音ハラは、「自分が不快だからやめてほしい」と主張しているにすぎず、本来のハラスメントの定義とは異なる。
「そのため、『職場で問題となるかどうか?』という視点で、ハラスメントを明確に区別することが必要です。単なる個人の感覚の問題は、個人間の調整や配慮の範疇と整理する一方、明らかに就業環境を害しているものは会社が対応すべき問題でしょう」