みんなで選んだ“全員出場”に悔いなし
大会はトーナメント形式。負けたチーム同士での順位決定戦も行われる。面白いのは、大会2日目に実施される決勝戦以外は、チームのメンバー全員が1試合に1度はゲームに出場しなければならないというルールだ。
大会2日目に実施された決勝戦ではその縛りはないが、敗れた城野小学校は、あえて準決勝までと同じ全員出場にこだわった。城野小学校の小西隼平先生は、こう話す。
「子どもたちには決勝戦の日の朝、小森江小学校はとても強いチームで厳しい戦いになると思うと話しました。そのうえで、決勝は全員が出なくてもいいルールになっていると伝えたのですが、子どもたちが『全員出ないことなんて考えられん』と言って、準決勝までと同じように全員が出場しようとなりました。決勝では負けてしまったけど、私としては、子どもたちがみんなのことを思って自分たちで決断してくれたことが、一番良かったと思います」
一般的に、小学校の体育の授業ではバスケやサッカー、水泳などを経験したことのある子、あるいは成長が早くて体の大きい子が活躍することが多い。
運動の苦手な子はどうしても授業の中で存在感が薄くなってしまう。それが、車いすバスケだと変わってくる。車いすを乗りこなす練習から始めなければならないので、運動能力やスポーツ経験の差は大きな問題にならない。女子でも練習を熱心にした子は、チームの中心メンバーとして活躍できる。
一方、練習を重ねて徐々に上手になってくると、勝利を目指すために仲間により高いレベルを要求したくなるものだ。それは、城野小学校のチームの中でもあったという。それが表に出たのが、大会直前に前年大会で優勝した6年生のチームと練習試合をしたときだった。小西先生は、その時のことをこう話す。
「ものすごいボロ負けだったんです。『このまま大会に出ても負ける』という空気になったときに、やっぱり、誰かを責める声が出てきた。でも、そのときにみんなで『チームの負けを誰かのせいにしたら、その子は車いすバスケをやってよかったと思えるのか』ということについて話し合いました。すると、子どもたちから『声のかけ方がよくなかった』、『もっとみんなをサポートしたい』という声が出るようになりました。最後に本当にいいチームになれたと思います」
試合には負けたが、クラスが一体となって同じ目標に向かってお互いを支え合う。それこそが、北九州市で20年以上にわたって大会が続いてきた魅力だ。
決勝戦は、国際大会である「北九州チャンピオンズカップ国際車いすバスケットボール大会」直前に行われる。2024年の国際大会は、日本、カナダ、スペインの3チームが参加した。出場した選手たちは、自分たちの試合直前であるにもかかわらず、子どもたちの勇姿を真剣に見ていた。カナダ代表のナシフ・チャウドリー選手は、こう話す。
「ほとんどの子どもたちが車いす未経験者だったことを考えると、すごい成長している。こんな小さな子どもが車いすバスケを経験するのはとてもいいことで、もっとたくさんの子どもにプレーしてほしいね」
大会の運営を担う、北九州市障害者スポーツセンター「アレアス」の山下悟さんは、こう話す。「毎年のように、外国の選手たちから『この大会のレガシーは子どもたちだ』と言われるんです。それが一番うれしい」
車いすに乗ったことで、子どもたちが変化していく。5カ月間の努力は、試合の勝ち負け以上に尊いものを教えてくれる。
写真/越智貴雄[カンパラプレス]・ 文/西岡千史