考え方を変えればまだまだ記録が伸びる
室伏重信氏(以下重信) 私が選手時代に、心・技・体・調(調整)の高まりを見つけて、満足のできる動きを見つけた、その時期がだいぶ遅いんですね。今振り返ると、40近くになってからの動きが一番よくて、「考え方を変えればまだまだ記録が伸びる」、そういう発想で、投擲の技術をずっと追求していたんです。
そして記録としては、日本新記録で生涯の自己ベストとなった75m96㎝というところにたどり着きました。
そのときの感覚があるからこそ、息子の選手時代にも、コーチとしてアドバイスを送りました。ですけど、私が指導してきた選手は、息子のような世界レベルの選手だけではありません。現在も私は日本大学でハンマー投げを指導していますが、記録の低い者もいるし、高い者もいます。そのなかで何が難しいかというと、やはり「感覚」なんですね。
ハンマー投げには「よい投げの感覚」というものがあるのですが、私や息子はその感覚を持っているから、その通りに投げることができるけれど、学生たちはまず同じようにはできない。
だからコーチとしては「何でできないのか?」と、相手の感覚に入っていかなきゃいけない。そしてそれは未知数なんです。50mに行かないレベルの学生もいるし、70mに行く学生も一緒に指導しているなかでは、「相手の感覚に入っていく」ということは、本当に難しい。
ハンマー投げは、心・技・体・調の高度な一致が求められる難しい種目なので、その感覚を伝えることはなおさら難しい。ですから学生たちに向かって、頭ごなしにものを言うことはできません。
友達のような感覚で、相手の心の中に入っていって、「この選手が50mも行かないのは、なぜだろう?」と、選手と一緒に足りないものを探していく必要があるのです。