スポーツにおける“心理戦”の重要性
いかなるスポーツの大会であっても、必ず心理的要素が存在する。
特にトップレベルの大会でパフォーマンスするとなれば、ずば抜けた自信と集中力が求められるだろう。そのいずれかを揺るがす要素は何であれ、勝利を目指す者にとって大きな脅威となる。
相手に精神的動揺を与えたり、巧妙な心理戦を仕掛けたりするのは、どのスポーツにおいてもよく見られる光景だ。
たとえば、1960年代に行われたボクシングタイトルマッチの一戦に際して、モハメド・アリはヒステリックに叫びながら計量会場に姿を現した。完全に正気を失った様子で、当時ヘビー級王者だったソニー・リストンに揺さぶりをかけたのだ。
また、競泳レースにおいてスタートの号砲が鳴る直前、にわかに自らの水着をわざと見るスイマーもいる。
すると、ライバルの1〜2人がつられて自分の水着もきちんと着用されているか確認するため視線を落とすという。その瞬間、号砲が響くというわけだ。つられた選手は集中力が削がれ、ほんのわずかにスタートが遅れるはめになる。
このような行為は決して不正行為ではない。不正行為とは、あくまでルールに違反する行為である。したがって、相手選手の精神的な弱さにつけこむ行為は不正行為にあたらない。
その点を踏まえれば、チャンピオンを名乗らんとする者は例外なく、自らの競技パフォーマンスに加え、心理コントロールにおいても並外れた能力を備えているべきだろう。
その努力を怠るのであれば、たとえ相手の揺さぶりで調子を狂わされたとしても、文句を言うのは筋違いである。