ニコニコと笑いながら、わざと記者の質問に誠実に答えない

山崎 あらためて振り返ると、小池百合子を取り巻く二つの問題が都知事選で可視化されたことが、私には非常に印象的でした。

ひとつは、徹底した「論理性の軽視」です。記者会見の質疑応答で、彼女は論理的な質問のやり取りを最後まで頑なに拒絶し続けました。

なぜあそこまで頑なに質問への誠実な回答を拒絶したのかと考えると、おそらく論理的に対応する自信がないこと、そして「論理性を軽視しても今の社会では通用する、むしろそのほうが有利になる」と確信していたからだと思います。

彼女はテレビ業界の出身ですから、テレビをどう使って印象操作すれば宣伝として効果的なのかというテクニックを熟知しています。それゆえ、記者と論理的なやり取りを誠実にする代わりに、不都合な質問は徹底的に拒否することを選んだ。

ニコニコと笑いながら、わざと記者の質問に誠実に答えないことによって、権力者としての自分の強さをアピールしていく戦略です。

そうすると、「小池さんは強そうだから今回も任せよう」という有権者の受け身な思考に響くわけですね。民主主義としては本末転倒な手法ですが、それでも彼女はそのやり方によって今の地位に留まることに成功した。

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ではその強さが盤石かというと、実態としては非常に「弱い」んだと思います。つまり今回の都知事選で浮き彫りになったもうひとつのことは、小池百合子知事の「政治家としての脆弱さ」です。政治家としての本物の強さが彼女にあるなら、堂々と記者の質問に答えられるはずなんです。

自分にとって都合が悪い質問であっても、能力に自信があれば、一般市民の前で逃げずに受け答えできる。でも彼女はそれをせずに、自民党や電通などの「力」に頼る道を選びました。

これは自民党も同じです。自民党の力の源泉は、統一教会や日本会議などの宗教系政治勢力、財界(大企業)などの後押しです。それらの力を借りて、自民党は選挙で勝たせてもらっている。

その見返りとして、大企業に利権を与えたり、政策面での要望に従うなどのリターンを与えて関係性を維持しているのですから、小池百合子も自民党も、政治家としての能力面で本物の強さがあるわけではないんです。

2024年の都知事選は、小池百合子という人物の小ささと弱さ、うさん臭さがはっきりと浮かび上がった選挙だったと思います。政治家としての弱さが露呈してしまった今、彼女はもう二度と国政には戻れないはずです。

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