女性のほうが毎日施設に通所することが難しいという現実

アルコール依存症の女性は、男性よりも断酒を続けるのが難しいと言われている。女性のアルコール依存症は男性と異なり、独特の問題をはらんでいる。

女性専門のアルコール依存症のサポート組織は、全国で10か所ほどあるという。横浜市内でアルコール依存症の女性に特化し、社会復帰の支援を担っているNPO法人「あんだんて」の代表、小嶋洋子さんに女性のアルコール依存症の現実と、回復への道のりを聞いた。

「あんだんて」の施設には、十数人のアルコール依存症者の女性が通所している。

小嶋さん自身もアルコール依存症の過去を持ち、30年以上、断酒を続けている。「あんだんて」を自ら立ち上げる前には、アルコール・薬物依存症者の社会復帰を支援するNPO法人のスタッフを十年以上経験している。

「アルコール依存症の女性に話を聞くと、その多くは幼少期にいじめや性的な虐待等のつらい経験をしています。心的外傷になっている嫌なこと、つらいことを一時的に忘れたい。それが、彼女たちの大量飲酒につながっていると察せられます。

女性の幼少期のつらい体験は、アルコール依存症の父親からだったり、男性から受けた暴力がほとんどです。支援施設で男性と女性が一緒にミーティングをすると、女性は男性の顔色をうかがってしまうことが多く、人によっては男性の影がちらつくだけで萎縮してしまう場合もある。

前職の施設で、初めて女性スタッフとして私が採用され、それまでほとんどいなかった女性の利用者が20名ほどに増えまして。アルコールの依存で悩んでいる女性が多い現実を実感しました。女性だけの支援施設が必要だと、切実に思ったのです」

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小嶋さんの思いが通じた形で、行政の支援を受けることができ、アルコール依存症の女性をサポートするNPO法人を十数年前に立ち上げ、施設を開設した。

女性の場合、置かれた環境が男性とは異なると、小嶋さんは言う。

「女性が尊重される社会になったとはいえ、日本はまだまだ男性中心の社会です。育児やお年寄りの介護、家事も含めてそのほとんどを女性がこなしているのが現実です。家族がいる女性は、毎日施設に通所することが難しい。また毎日、ミーティングへの参加を促されると、トラウマを抱えていたり、精神疾患のあるアルコール依存症の女性は疲れてしまう。あまり疲れさせると、幼少期のつらい経験がフラッシュバックすることも考えられるし、精神的に不安定な状態に陥ることもあります」