「飲みたい自分」と「飲みたくない自分」
全国にはアルコール依存者の社会復帰を支援する組織が存在する。横浜マックもそんな認定NPO法人だ。話を聞いたのは横浜マックのスタッフ、内村晋さんである。
内村さんもアルコール依存症の過去があり、16年間断酒を続けている。内村さんは言う。
「病院では主に心と体の治療をします。解毒剤や精神安定剤を投与して、断酒についての教育をする。マックでは次のステップに進む支援をする。アルコール依存者の社会復帰のお手伝いをする施設です」
全国で十数か所あるマックの施設は、アメリカ人神父が50年ほど前、日本に紹介したAA(※アルコホーリクス・アノニマス:アルコール依存症などの問題を抱える人たちの自助グループ)という飲酒を止めたい人のためのプログラムが基になっている。40年ほど前に開設された横浜マックは、障害者福祉サービスの制度に基づき運営されている。
NPO法人横浜マックへの通所と入所は、区役所の障害福祉を担当する窓口での手続きが必要だ。公的な助成金が支給され、生活保護および非課税世帯の人は無料、通常は一割負担。収入のある人は追加の費用を負担する。
通所は最長で2年間、月曜日から土曜日まで施設に通うことができ、午前9時半から午後2時30分まで、卓球等のレクリエーションも織り交ぜながら、通所者はスタッフとともにミーティングを中心としたプログラムに取り組む。
ミーティングは断酒会やAAの例会と同じで、自分の飲酒体験を話し、相手の飲酒の体験を聞く、これを徹底的に行う。内村さんは言う。
「僕もアルコール依存症で、久里浜医療センターに2回入院した経験があるんですが、『退院した人がボロボロになって戻ってくる。回転ドアのようでむなしい気持ちになるときがある』という、アルコール依存症病棟の看護師さんの言葉が忘れられません。
アルコール依存症の人は、メリーゴーラウンドに乗っているようなものです。断酒を決意しても何か嫌なことがあると、またお酒を飲んでしまう。同じところをぐるぐる回ってるだけで、他の術を知らない。そういう脳になってしまっている。
ウソをついて会社を休み、ウソをついてお金を借りお酒を飲んだり。ウソが雪だるま式に膨らんで周りの人は遠ざかり、中には家族も失い、一人ぼっちの人も多い。現実を見たくないからまたお酒を飲む」
横浜マックには、そんな状態に置かれたアルコール依存者が目立つ。だが、自分なりに〝底つき〟を意識して、何とかしたいと断酒を決意し、社会復帰を目指す人たちである。
ちなみに内村さんもだが、数名いるスタッフのほとんどは、元アルコール依存者で、10年以上断酒を続けている。自分と同じ境遇だったスタッフの言葉は、医療関係者の声掛けとは違い重みがあるし、共感が持てる。
アルコール依存症は人間性が壊れる病気だ。まず、心を治さなければならない。通所者の話を毎日聞いて、自分のことをポツリポツリと話し続ける中で、みんなお酒に関して同じような失敗をやらかしてきたという現実に直面する。そんな実感を通して通所者との共感が芽生え、喪失した人間性の回復というリハビリにつながっていく。