職を失って得たもの
57歳で職を失ったが、それでも得たものも大きかった。
「これまで仕事を最優先にしてきたので、家族の時間が増えたことは辞めて得られたことだなと思います。当時は忙しすぎて、国内の家族旅行でさえ渋っていましたので」
そう語る伊藤さん。現在は末っ子が語学留学中のヨーロッパに妻と旅行中だといい、現地からオンラインで取材に応じてくれた。
「仕事で一番辛かったときのことを最近よく思い出すんです。今考えると、なんで家族よりもあんなに仕事を優先して生きてきたんだろうとか、どうしてあんなに感情を押し殺してきたんだろうとか…。
まだ新しい仕事すら見つかっていないですが、これからは今まで蔑ろにしていた家族との時間を大切にしようと思っています。そして自分の心身の健康を大切に生きていきたい。それが第二ラウンドの人生の目標ですかね」
そして、60歳以降の働き方に関しても一つの志しがある。
「お金を貯めて死んでいく人が多いのは、みんな不安だからなんです。自分ではもう稼いでいくことができない。前の会社で働いていたとき、『これから自分も年金と退職金を抱えてお金が減っていくのを不安に感じながら、ただ生きていく人生なのかな』って思うとすごくつまらないなと感じてしまって。
だから、これからは定年に縛られない働き方をしていきたい。それが自分にとっての幸せな生き方だなと感じています」
そう話す伊藤さんの口調からはどこか力強さが垣間見れた。
取材・文/木下未希 集英社オンライン編集部