フィッシング詐欺で六七万円を振り込む詐欺の小説を書いている人なのに(笑)
新庄 ドラマを観た人のコメントをチェックしていたら、自分も地面師になりたい、憧れると言っている人が結構いるんです。模倣犯がいっぱい現れるんじゃないかって、ちょっとドキドキしています。
瀧 最近、司法書士会のお偉いさんが詐欺でとっつかまったじゃないですか。SNSで、「リアル後藤だ」とか「第一話に出てくる司法書士を見習え!」とか言っている人がいましたよ。
新庄 後藤が本人確認の手続きをやめさせようとするんだけど、「僕にも司法書士としてのプライドがあります」と言って、貫徹するんですよね。
瀧 カモにならないためにも、不動産関係にちょっとでも興味がある人は観たほうがいいですよね。読んだほうがいい。
新庄 『地面師たち』を書く時にいろいろ取材したんですが、今でもすごく印象に残っている話があります。ある人がマンションを一棟売ることになったんですね。いよいよ先方と契約書を交わしますという時に、売買価格の〇が一個間違っていたんです。
瀧 多かったんですか。少なかった?
新庄 少なかった。売値は本当は数億だったのが、数千万で売っちゃったんです。その契約書を作ったのは先方なんですよ。
瀧 うわっ、それって……。
新庄 実印を押しちゃったので……。あっちの言い分としては、「すみません、見落としてました」と。本当に間違えたのか、あえてやっていたのか。これを、詐欺と言うのかどうか。
瀧 震えますねぇ。
新庄 カネを儲けたという行為は明らかなんだけれども、相手に「騙すつもりじゃなかった」と言われたらそれまでというか、心の問題になってしまう。詐欺は、証明することがとても難しいんです。
瀧 ネットやらスマホやらが出てきたせいで、詐欺の件数は二〇年前とかと比べたら莫大 に増えているんでしょうね。
新庄 増えてますね。僕もこの前、騙されましたもん。フィッシング詐欺。
瀧 それ、ネットの記事で見ました。何で引っかかっちゃったんですか?
新庄 その前日に、イタリアのサイトをちょこちょこ見ていて、商品を買うために個人情報のデータを入れていたんですよ。そうしたら、翌日にマイクロソフトから、それ自体はウソではなかったんですが、あなたの個人情報とパスワードが外部に漏れています、今すぐ変えてくださいという連絡が来て、マイクロソフトから何から全部変えたんです。それでドタバタしていた日の夜に、銀行から「あなたの銀行口座が狙われています」というショートメールが届いて、やばいやばいとインターネットバンキングに情報を入力して、わけ分かんないやつに六七万円送金したんです。
瀧 テンパっちゃった。
新庄 友達にそれを報告したら、「それ、おじいちゃんが騙されるやつだ」って(笑)。後から考えると、なんでそんなバカなことをしたのかと思うんですけど、その時は必死ですから。
瀧 詐欺の小説を書いている人なのに!(笑)
新庄 詐欺は絶対なくならないな、と身をもって実感しました。
映像に関して僕にできることがあるとしたら一切口を出さないことだと思ったんです
新庄 今回のドラマは、瀧さんの相棒である、石野卓球 さんの劇伴もめちゃくちゃ良かったです。卓球さんが劇伴を作ったのって、初めてなんですよね。
瀧 そうなんです。僕とやっている電気グルーヴでは、彼はコンポーザーの面が強いんですが、DJとしての顔もあるんですよね。DJって現場に行って、お客さんたちの場の雰囲気、お客さんたちのノリを見ながら、次はこの曲だろうというものを提出していく。おそらくそれと同じ感覚で、こういうシーンだったりこういうムードの時はこれっしょという音楽を当てられるんでしょうね。彼が作るトラックは何千曲と聴いてきましたけど、やっぱりすげえなぁと思いましたね。
新庄 これは大根さんが企画書で書かれていたことなんですが、日本の映画やドラマは音楽、劇伴がもう一つ足りないところがあるから、絶対になんとかしたい、と。どういう感じになるのかなと思ったら、こういうことだったのかと。映像って総合芸術なんだな、と改めて感じました。何か一つでも欠けていたら、今の結果にはならなかったかもしれません。
瀧 全七話を、何度も観ている人が多いらしいんですよ。こういう話って手口とネタが分かっちゃったら、二回目を観ることってあんまりないと思うんですけど、それに堪 える作品なんでしょうね。
新庄 自分の小説が映像化されるのは、初めての経験だったんです。大根さんから一話、二話の脚本を頂いた時に、プロデューサーさんからは「気になるところがあれば言ってください」と言われていたんですが、トーンはだいぶ変わっているし、話や登場人物の設定も細かく変わっていて、気になると言えば全部が気になる。原作者である自分の感覚通りにするなら、全部変えるしかないんです。そんなことは不可能だし、それがいいとも思えない。映像に関して僕にできることがあるとしたら、大根さんの感覚にお任せして、一切口を出さないことだと思ったんです。その判断が良かった、とちょっと自分を褒めてあげたい気がしています(笑)。
「小説すばる」2024年12月号転載