奥田民生はミュージシャンとして理想の存在?
──奥田民生という存在は、後続のミュージシャンたちから、いや、ミュージシャン以外も含めて、「あんなふうに活動していきたい」「あんなふうに生きていきたい」という、理想の存在だと思われているところがありますよね。好きな音楽を好きなようにやれている、ダサいことはやらない、スタッフから指図されない……。
奥田民生(以下同) されるっちゅうの(笑)。
──でも、そういうふうに見えている。
見えているんですよね? その「見えている」のは、俺にとっていいことなんですか? 本当はいろいろ大変なのに、そうは思われないわけじゃない? それはどうなの?
──本当はいろいろ大変ですか?
あたりまえじゃないですか!(笑)。
──自分発信ではない、スタッフから提案の仕事も多い?
うん。音楽は、やりたいようにやらせてもらってるけど、ただ、やることがそんなに多くないからね。レコーディングして、ライブやって、というだけだから。でもそこで、たとえば昔だったら、レコーディングで海外に行って、すごい勉強させてもらったし。
そういうのって、ほっといたら、俺はやんないのよ。出不精だったりするから。それを「いいからやんなさい」って、やらせてくれて、結果、それが自分の身になる。全部自分で考えて自分が決めていたら、そういうことは起きないじゃない?
だから、提案されたのがちょっと判断できない仕事であっても、とりあえずやってみれば、マイナスにはならないだろうと。「これはどう考えてもプラスにはならん」っていうのがあきらかなやつは、やりませんけど。誰かが「これはやった方がいいよ」って言うなら、「そうすか、やります」と。この本を出したのも、そういった経緯です。
俺には、自分からやりたいことが、そんなにないわけよ。「これ、昔はやれなかったけど、今ならできる」みたいな、そういうのもないし、目標もないし。なので、なにか仕事を始めるときのとっかかりを、自分からはどんどん出せない。ひとりだと、「じゃあ次のアルバムを作るわ」って言い出すまでに何年かかるんだよ、ってことにもなる。
だから、ツアーにしてもレコーディングにしても、「そろそろやりましょう。このタイミングで」って〆切があった方が、「ああ、はいはい」ってやる気も出るね。これは本にも書いてあるけど、ここは人にまかせた方が、自分にとっても、ためになるかなと思っています。