一気に口が重くなった甘利
現場の記者たちが取材に駆け回っている間、デスクを務める荒木は国会記者会館の会議室で留守番をしていた。頻繁にチャットを見ては、各記者の取材の状況を見守っていたが、そこに書き込まれていた投稿を見て、目を疑った。
「甘利さん、100万円提供を認めました」
書き込んだのは河野だった。念のために確認のメッセージを送ると、甘利は本当に認めたという。この日の取材は二階、菅、甘利からコメントが取れたら御の字で、現金の提供は当然否定されるものと想定していただけに、信じられない気持ちだった。同時に、胸が高鳴った。
その後、荒木は広島の本社にいる高本ら編集局幹部に現状報告のメールを送った。二階、菅の2人にはまだ当たれていないものの、甘利が100万円の提供を認めたと報告した。「甘利さんから引き出せたのは大きい。メモの信ぴょう性を裏付けてくれる」「よくぞ甘利さんを落とした」とうれしいメールが返ってきた。
そして午後。今度は河野と中川の2人が自民党本部で予定されている会合に向かい、甘利を待ち受けた。甘利の写真を撮影し、チャンスがあれば、克行への提供を認めた100万円が買収資金だったかを再確認するのが狙いだった。
写真撮影はうまくいった。ただ、会合後に河野が国会内で甘利に再び直撃すると、口は一気に重くなっていた。言ってはならないことを言ってしまった、と察知したのだろうか。
――河井氏に提供したお金が買収に使われたという認識はありますか。
「おれに聞かれても分かんねえよ」
今度は立ち止まることなく、そのほかの質問には全く答えず、去って行った。このやりとりをした後に、東京支社時代に聞いた甘利の言葉を思い出した。「お金の使い道は河井が勝手に決めた」。知らないことは知らないとやはり答えたのかもしれないと思った。
甘利への取材は想像をはるかに超える成果が得られ、取材班の士気は上がった。
その一方で、菅への直接取材はめどが全く立っていなかった。菅のスケジュールが分かっておらず、国会にいるのか、地元の神奈川県にいるのかも分かっていなかった。甘利の取材を終えてから国会内を回ってみたが、足取りはつかめなかった。