世襲支配と政治家の劣化
実は小選挙区制度が導入された1996年総選挙以降の総理大臣を見ると、岸田文雄首相まで12人が総理大臣についているが、そのうち3人(28年間のうち3年半だけ)を除けば、すべて世襲議員である。ただし森喜朗の場合、父親の森茂喜は国会議員ではなく9期連続で、石川県の根上町(現能美市)の町長であった。すでに日本は北朝鮮と遜色がない世襲政治になっている。
その背後には、係累が地方自治体の首長や地方議員であることを含めると、自民党の衆議院議員258人(2024年2月)の中に少なくとも109人(42%)もの世襲議員がおり、根深い基盤を築いている。
小選挙区の数が289であることを勘案すると、世襲議員の多さは尋常ではない。実際、インターネットのサイト(「自由民主党国会議員覧」)や『國會要覧』『新訂政治家人名事典』などで拾っていくと、おびただしい人数の世襲議員が自民党を占拠していることが分かる。
もちろん、世襲議員だからいけないのではない。これほど多くの世襲議員が国会議員を占めていることは、社会的流動性の低さを表すだけでなく、彼らを数多く生み出す再生産の仕組み(メカニズム)が存在していることを示唆している。問題はその仕組みである。
世襲議員であることでジバン、カバン、カンバンを持つがゆえに優位に立てる。そのうえで、金でつながる地域の利益共同体を作ってしまえば、同じ選挙区で競い合う必要がない。その結果、同じ自民党内部の他派閥の候補者と政策やビジョンを競い合う必然性はなく、しだいに切磋琢磨して身に付ける政策形成能力も答弁能力も必要性がなくなっていく。
こうした劣化した世襲議員の代表者が、三世代目の安倍晋三であり、麻生太郎であり、岸田文雄なのである。そして、こうした劣化した議員たちが威張っていられる仕組みを作ったのが、「2015年体制」なのである。官僚制をつぶし、メディアの批判能力を奪っていき、しかもできるだけ国会を開かず、すべてを自公両党の協議と閣議決定で決めていけば、彼らのように劣化した能力レベルでも国会議員でいることができるようになったのである。