考察ブームにみんな疲れている?

吉田 でも完全に隠すことが最適解なのかというと、今はそうじゃなくなっているかもしれない。それはそれでもう浅いのかもしれないっていう。虚実の取り扱いがものすごい勢いで二転三転四転五転しているので、作者はどうすべきかの最適解の態度も常に流動している。

 特にホラー作品、またネットホラーだとさらにそうです。これはもう全く無責任な考察なんですけど、多分、2025年頃までには、ネット上に集積した情報で考察してもらうみたいな手法は、一回揺り戻しが起こるんじゃないか。「そういう考察はもう疲れたよ」みたいになる時期が来るんじゃないかなと思っています。

吉田 となると、スタンダードな骨太ホラー小説が流行る。

 骨太ホラー小説とか、あるいは最初から解説ありきというか、もう解説を地の文で提示しちゃう。あるいはちゃんとキャラクターがいて、小説として面白いみたいな感じの方に行くんじゃないかなと、私は思っているんです。

吉田 それはあり得るかもしれないです。私は最近、また篠田節子などの小説を読んでいますけど、やっぱり骨太感っていいなって思いますよね。

篠田節子の初期のホラー傑作『神鳥イビス』(集英社文庫、1996年)
篠田節子の初期のホラー傑作『神鳥イビス』(集英社文庫、1996年)
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 こっちはカウンターですからね。他に骨太ホラーや実話怪談とかがあって、そのカウンターとしてようやく機能するコンテンツだと思っているので。ファウンド・フッテージが主流になったら、絶対に読み手は疲れるんですよ。

だってこんな、読み手に能動性を担保して、それでようやく成立するなんてものが乱立した場合、読者にとっては「それらを読み解くのに時間使ってくださいね」なんて知ったこっちゃねえよ、ってなるじゃないですか。

吉田 ひたすらカウンターであるという意見には、確かになるほどと膝を打つところはあります。もしそれがカウンターでしかないところから脱却するとしたら、それこそプロレタリア文学みたいな、なんらかの意義なりバックボーンをきちんと持つようになればいけるのかな。

 だから、次のステップにはそういうものがあるのかなと、今は思っています。


文/吉田悠軌 写真/長谷川健太郎

ジャパン・ホラーの現在地
吉田悠軌
ジャパン・ホラーの現在地
2024年7月5日
1,650円(税込)
単行本/288ページ
ISBN: 978-4087881042
今、なにが怖い? 人気作家、TVプロデューサー、映画監督、配信者など、日本のホラー文化最前線のクリエイターたちとともに考える論考集。
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「行方不明展」概要                       
タイトル:行方不明展
場所:三越前福島ビル
住所:東京都 中央区 日本橋 室町1-5-3  三越前 福島ビル 1F
※東京メトロ「三越前駅」徒歩2分
開催時間:7月19日〜9月1日  11時〜20時 ※最終入場は閉館30分前
※観覧の所要時間は約90分となります。
料金:2,200円(税込)
主催:株式会社闇・株式会社テレビ東京・株式会社ローソンエンタテインメント

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