肩の力を抜いて余裕を残したスタイルが鎌倉にはよく似合う
ショップ横の階段から2階に上がると右側にはオープンキッチンとカウンター、テーブル席が二つ。左側のスペースには10人ぐらいが座れる大きな楕円形のテーブルがあり、空間の主役感を醸し出している。こちらの家具はすべて、ショップで扱っているikkenのもの。京都の家具・建築のユニットとのこと。
テーブルの横の大きなガラス窓からはちらりと材木座海岸が見える。今まで、海の見えるレストランとそれ以外という分け方しかしていなかったけれど、こういう「海のチラ見え」もいいものだと知った。とても大人っぽい。
目を引くのは壁にかけられた大きな油絵だ。ブラウスを着たトルソーの前に魚が二匹。深めの色調と相まって、はなやかさやさわやかさとは無縁、おどろおどろしさの二歩手前。何かが起こりそうな、いや、何かが起こってしまった後かもしれないが、そこには濃い物語が描かれている。想像力が解放される一枚なのだ。
大正生まれの三流画家「ユアサエボシ」という設定で発表を続ける現代の作家の作品である。ググってみると、かなり細かくユアサエボシの経歴が決められていておもしろい。
無難な絵を飾らないところに「セカンドフロア」なんていう、そっけない店名がしゃれた響きになる理由を見つけた。こういうエッジをきかせることをセンスというのではないだろうか。
週末は夜も営業しているので、私は気のおけない友人との会食に使うことが多い。ランチの時のエスニックは消え、都会的なイタリアンとなる。決して気を衒わない、自慢げなところがない、でも「実は」手がこんでいる、そういうイタリアン。
アラカルトのみなので黒板にチョークでその夜のメニューが書かれていて、わいわいと迷いながら決めていくのも楽しい。素材に寄り添っていて、季節感が満載なのはある意味日本料理に近いようにも感じる。
そして、特筆すべきはパンのおいしいこと! 必ず焼きたてのブリオッシュとフォカッチャが供されるのだが、それがもうおいしくて私は毎回お代わりをしている。セカンドフロアは、イタリアっぽく「コペルト」というテーブルチャージを支払う。これが焼きたてのパン代だと思うと、もっと支払いたくなるぐらいおいしい!
バイザグラスのナチュールワインが充実しているので、食事が終わってもついおしゃべりして長居をしてしまう。階段を降りて店の外に出ると、思いの外夜が深まっていることに気が付くあの瞬間が好きだ。
目一杯着飾るのもまあ楽しいけれど、何事にも肩の力を抜いて余裕を残したスタイルを心掛けているし、鎌倉はそれが似合う街だと思っている。そうそう、だからアーツ&サイエンスおよびセカンドフロアの個性と合うわけだよね。
この店には海街の気軽さと都会のクールさとが混じり合って、他にはない空気が流れている。
写真・文/甘糟りり子