鎌倉でおすすめを聞かれた時、幅広い人たちに教えてあげたい

鎌倉はコンパクトな観光地だ。

行きたいところをリストアップしてうまく計画を立てれば、徒歩でも回れてしまう。山も海も街も楽しめるし、最近はホテルなど宿泊施設が増えているけれど、日帰りでもたっぷり旅行気分が味わえる。

タイトルに鎌倉とついた書籍やエッセイを書いているので、連休近くなると、知人友人におすすめの観光やランチのお店を教えて欲しいとリクエストされることが多い。それぞれの希望を聞いてその人の嗜好に合ったコースやお店を設定してあげたいのだが、毎回そうもしていられない。

そんな時、幅広い人たちにおすすめできるのが長谷の「モキチ カマクラ」。

モキチは1936年に建てられた旧「神奈川県営湘南鎌倉水道ポンプ所」を改装した建物に
モキチは1936年に建てられた旧「神奈川県営湘南鎌倉水道ポンプ所」を改装した建物に
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茅ヶ崎の熊澤酒造が手掛けたレストランだ。モキチを訪れたら、料理の前にまずはこの広々とした建物を存分に味わってもらいたい。ここは1936年に建てられた旧「神奈川県営湘南鎌倉水道ポンプ所」。茶色いスクラッチタイル張りの四角い建物は、貴重な当時のモダニズム建築だ。私はこういう古い建築が大好き。そこに重なっている時間に物語を感じるから。

鎌倉には古い建物を改装してレストランやカフェを営んでいるお店が多いが、改装やアレンジの仕方にもそれぞれの店の個性が感じられて楽しい。モキチは建物が醸し出すクラシックな雰囲気を大切にしながら、現代的なセンスが溶け込み、海のそばらしいカジュアル感もあって、いろいろな食材のエッセンスが沁みたスープみたい。肩の力が抜けた感じがおしゃれだ。

7〜8メートルはあろうかという高い天井、そこからぶら下がるモダンなシャンデリア、白い天井や壁や窓。そして、材木座にあった昭和初期建築の古い邸宅の建具や手すり、什器、床材や角材などが利用されている。ポンプ所とは別の時間もまたここで積み重なっているのだ。

高い天井と、そこからぶら下がるモダンなシャンデリア
高い天井と、そこからぶら下がるモダンなシャンデリア

バリ島の楽器が飾られていたり、フィンランドの古い時計がかけられていたり、アメリカのアンティークのポスターがあったりするけれど、散らかった印象はまったくない。さまざまな国とさまざまな時代が共存して、独特の解放感を生み出している。だからこそ、地元の人でも観光客でも、カップルでもグループでも一人でも、子供でも若者でも中年でも老年でもくつろげるのだろう。