現在は「恋人の聖地」として売り出し
渡鹿野島のメイン通りには、青色や紫色といった色鮮やかなスナック看板がズラリと並んでいるが、辺りが暗くなっても、それらが灯ることはほとんどない。
島の全盛期には置屋の娼婦や男性客で奥が見えないほど混雑してたというが、この日は人ひとり見当たらず、ただ虫の鳴く声だけが響きわたっていた。
島で唯一営業している定食屋の女性従業員は、寂しげに当時を振り返る。
「この島に活気があったころは、今では廃墟になってるホテルや旅館も営業してたので、そうしたお客さんたちでウチも賑わってましたよ。
お昼どきになると、観光客の方たちが食べにきてくれたし、夜になると、旅館の従業員とか(置屋の)ホステスさんも食べにくるので満席になることもありました。
その当時は周りの飲食店もやってましたし、ウチも朝8時から夜11時くらいまで営業してましたけど、今は日中と夜に少し開けるくらいです」
その一方で、渡鹿野島は航空図で見るとハート形の地形をしていることから「恋人の聖地」として近年では観光誘致に力を入れているという。この日も取材を進めるうちに、海岸沿いで観光客の姿も複数確認できた。そのなかには島の歴史を知らない人も少なくなかった。
「奥さんが旅行サイトで調べてたらこの島が出てきたんですよ。島の形がハートになってて『ハートアイランド』なんて書かれていたので、それで『ここ行ってみようよ』という流れになりまして。
もちろん僕は、生まれも育ちも三重県なので、この島で昔そういうこと(売春)が行われていたことを知ってました。ですが、奥さんはまったく知らなかったようで、そういう島だと教えたら『え、大丈夫なん?』と驚いてましたね」(三重県在住・30代夫婦)
「この島で昔エッチなことが行われていたことは、さっき彼女に聞きました(笑)。彼女は10年くらい前に家族でここに海水浴に行ったみたいで、そのときは『いい島やなぁ』と思って帰ったら、行きつけの美容院のお姉さんに島の歴史について教えてもらったみたいで。
べつに当時から観光客に見えるようにそういう商売をやっていたわけではないので、今回もとくに気にせずに来たという感じです」(奈良県在住・30代カップル)
島で唯一営業している商店の女性従業員も、「ここ数年で島に来る人たちも変化してきた」という。
「カップルとか家族連れもそうやけど、最近はサークルの合宿で来る大学生もおるみたいね。私もどうしてこんな島に? と思って聞いてみたら、『ヨソだと騒ぐと怒られるけど、ここは島だからはしゃいでも大丈夫かなと思って』とか言うんよ。これから夏にかけてそうした子も増えていくんやないかな」
かつて「売春島」と呼ばれた負のイメージを払拭し、新たな一歩を歩んでいる渡鹿野島。だが、#2で渡鹿野区長に話を聞くと、「売春」という名の一大産業に支えられてきた島が抱える、複雑な問題が浮かびあがった。
取材・文・撮影/神保英二
集英社オンライン編集部ニュース班