往時の盛り上がりが夢だったかのような島の現在
果たして実際のところはどうなのか。7月14日、名古屋駅から近鉄線に乗り換えて最寄りの鵜方駅へ。そこからタクシーで15分ほどかけて「渡鹿野渡船場」まで移動し、小型船に揺られること3分ほど。対岸に近づくにつれて、島の現状が浮かびあがってきた。
渡船場の近くに位置する5階建てのホテルは、まるで時が止まったかのように、窓にカーテンが付けられたまま閉館している。もう何年も手入れをしていないのだろう。
ホテルの壁はところどころ黒ずんでいて、正面玄関をのぞくと、エントランスにはソファが置かれたまま、テーブルの上には物が散乱していた。
さらに海岸沿いを歩くと、廃墟となったホテルや旅館がいくつも目に入る。なかには屋外にプールが併設された旅館もあるが、周囲には雑草が生い茂り、窓辺に取り付けられた障子も破れ落ちている。
島の全盛期には、こうした旅館やホテルで毎晩のように宴会が開かれていたかと思うと、それが売春目的だったとはいえ、一種の喪失感すら感じてしまう。
渡鹿野島で長年にわたり民宿を経営する女将に、島の現状について取材を申し込むと、「今はもう夜遊びできる場所はないよ」と話してくれた。
「今から4年前は、まだ1、2軒は置屋があって遊べる女の子も何人かいたんやけどな、コロナになって完全に終わったね。ただ、当時を懐かしんで磯釣りとかゴルフのついでに島に来る人はいるよ。
そういう人には、いまだに女の子と遊べるか聞かれるけど、もちろん断っとる。事前に言ってくれたら、なんとか島外のコンパニオンは呼べるけど、それもあくまで宴会のみやからな。『エッチはできへんで』と話しとる」
現在、渡鹿野島を訪れるのはカップルや家族連れがほとんど。毎年、学校が夏休みに突入すると海水浴目当てのファミリー層も増えるというが、2016年に伊勢志摩サミットが開催されるまでは、まだ売春目当ての観光客もいたのだとか。
「それまでは置屋もぜんぜんあったからな。サミットのせいで島外での警察の検問や締め付けも厳しくなったから、組合のほうでも『女の子に裏の仕事(売春)をさせんように』とお達しがきたわけさ。
せやけど、これ(売春)でしかメシ食えん人もおるわけやん。だからサミットのあとも隠れてボチボチとやってたわけやけど、コロナの3年間で置屋も全滅したってわけよ」