異例中の異例、ニュースサイトへの家宅捜査

実は県警は、今年4月8日に別件で福岡にある調査報道を扱うニュースサイト「ハンター」を家宅捜索し、ある取材データを押収している。大手メディアはこの件をほとんど報じていないが、日本で取材機関が強制捜査を受けることは極めて異例だ。そしてこの捜索が、本田前部長への捜査の端緒となったとみられるのだ。

「ハンター」を運営する中願寺純則代表が話す。

「本田前部長は退職3日後の3月28日に警察官の不祥事4件が書かれた資料を、『ハンター』で警察不祥事を執筆してきた北海道のジャーナリストに郵送、4月3日に受け取ったそのジャーナリストが同日中に資料のデータを私に送ってきていました。

この情報の扱いを検討していた4月8日に、鹿児島県警捜査二課を中心とする警察官がやって来て私の携帯電話やパソコンなどを押収しました。パソコンにあったデータを見て枕崎署員の盗撮事件の記録が外部に漏れていることに県警は気づき、『隠蔽』と書かれないよう5月になって(盗撮の疑いがある)巡査部長を逮捕したとみています。

また、このデータの存在に気づいたことで本田前部長の行動への捜査が始まったことに間違いありません」

それまで本田前部長の行動に気づいていなかった県警は、なぜニュースサイトへのガサという強硬な捜査を行ったのか。

「実は今回の一連の事件の背景には、2021年9月に新型コロナウイルス感染者の療養施設で起きた強制性交事件での県警の不審な捜査があります。『ハンター』は何度もこの問題を報じており、その過程で捜査がゆがめられたことを示唆する県警内部資料も入手し、報道しました。

この資料を流出させたとして県警は4月8日に曽於警察署の巡査長を逮捕し、その関係先として同じ日に『ハンター』にもガサにきたんです」(中願寺代表)

中願寺氏や複数の関係者の証言によると、事件は県医師会職員だった男性A氏が県内の病院から療養施設に派遣された看護師の女性Bさんを襲ったとされるものだ。この男性は自身の父親が鹿児島中央署に勤務する警察官だと女性に伝えていたといい、被害届を抑え込む意図があったと関係者はみている。

流出した鹿児島県警の捜査資料(「ハンター」提供)
流出した鹿児島県警の捜査資料(「ハンター」提供)

Bさんを支援する勤務先の関係者はこう証言する

「2021年12月にA氏を質すと、彼は行為について『ちょっと強引にした』『強姦です』と認めて平謝りでした。しかし直後に『慰謝料を払うが分割払いにする』と言い始め、その後『(行為)は合意だった』と主張を変えました」

「ハンター」の報道や前出の関係者によると、Bさんは2022年1月に鹿児島中央署に告訴しようとしたが、女性警察官が「あなたが望む結果にならない」と受け取ろうとしなかった。

Bさんは弁護士とともに再度同署を訪れて告訴状を提出したものの、その後、県医師会会長が「合意の上だった」「A氏には問題がなかった」との主張を始めた。

結局医師会は同年中にA氏を懲戒処分しA氏は依願退職。鹿児島県は県医師会に文書で厳重注意も行なったが、捜査は進展しない状況が続いた。

この件について、2023年1月になって「ハンター」が報道を始め、情報を得た立憲民主党の塩村あやか参院議員が同年3月に国会でこの問題を取り上げると、鹿児島県警は同年6月にようやくA氏を書類送検している。

だが県警は同年12月に嫌疑不十分でA氏を不起訴処分とし、Bさんは検察審査会に不起訴は不当だとして審査の申立てを行なっている。