伝説的記録を打ち立てた『1』『2』、和久を失い新生した『3』『FINAL』

ドラマ版の『踊る~』は、それまでの刑事ドラマの華だった“派手さ”をなくしたことが革新的だった。

従来の刑事ドラマはダイナミックなカーチェイスや、拳銃をドンパチ撃ち合う銃撃戦といった派手さが魅力。けれど『踊る~』はそういった演出を極力排除し、警察をひとつの大企業のように置き換え、青島たち湾岸署(所轄)の刑事を末端の平社員のように描いていった。

小さな事件を必死で捜査したり、警視庁(本庁)の雑用を押し付けられたりする悲哀や奮闘を、リアルかつコミカルに見せていったのだ。

『DVD 踊る大捜査線 1』(ポニーキャニオン、2000年12月20日発売)のジャケット。当時29歳の織田裕二がもと営業マンの脱サラ刑事、青島俊作を演じた
『DVD 踊る大捜査線 1』(ポニーキャニオン、2000年12月20日発売)のジャケット。当時29歳の織田裕二がもと営業マンの脱サラ刑事、青島俊作を演じた

もちろん劇場版シリーズでもその持ち味を踏襲。

たとえば第1弾『THE MOVIE』の冒頭で、張り込みのようなことをしている青島。シリアスな演出のため、さも大事件の容疑者を追っているのかと思えば、ゴルフコンペに参加する警視庁副総監を送る運転手役を押し付けられていただけ。コントのようなオチを付けているわけだ。

ちなみに冒頭シーンで観客をミスリードしてコミカルに落とすという手法は、劇場版全4作に共通しており、第2弾以降の“お約束”のようになっていく。

実写邦画最大のヒットとなった『THE MOVIE 2』でも、『踊る~』らしさが随所に光る。

序盤はコメディ要素多めに描きつつ、中盤から終盤にかけて徐々にシリアスさを増幅させ、いつの間にか一大スペクタクルになっているというグラデーションがお見事。こういった構成も4作品に共通する要素だが、『THE MOVIE 2』の出来栄えは、最高到達点にしてひとつの完成形だったように感じる。

そして『THE MOVIE 2』で忘れてはいけないのが、いかりや長介演じる和久平八郎のラストシーン。

ドラマ版で定年を迎え刑事ではなくなっていた和久だが、劇場版では退職者再雇用制度を利用した指導員として湾岸署に勤めており、実質、刑事のような行動を取っていた。

そんな和久が『THE MOVIE 2』の最後で指導員も辞め、青島と室井に警察の未来を託して去っていく。演者のいかりやが公開翌年の2004年に逝去したことを考えると、「頼むぞ、警察を。……なんてな」と笑顔を見せ、立ち去っていく後ろ姿は否応なしに涙腺を刺激されるのだ。

『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ! <Blu-ray Disc>』(ポニーキャニオン、2010年7月21日発売)のジャケット。「レインボーブリッジ、封鎖できません!」の名セリフも誕生
『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ! <Blu-ray Disc>』(ポニーキャニオン、2010年7月21日発売)のジャケット。「レインボーブリッジ、封鎖できません!」の名セリフも誕生

そこから空白の数年間を経て、『THE MOVIE 3』と『THE FINAL』の制作が発表されたときも、世間が沸き立っていたと記憶している。

とはいえ、大きな懸念点も……。そう、いかりや演じる和久がいないことだ。

しかし、その心配は杞憂に終わる。『THE MOVIE 3』から伊藤淳史演じる和久の甥っ子(和久伸次郎)が登場し、新人刑事として青島の部下となったのである。

叔父が刑事としての在り方をメモした「和久ノート」を形見として持っており、ことあるごとに内容を読み上げるため、出演していなくても要所要所で和久(=いかりや)の存在を感じられた。

そしてラストとなる『THE FINAL』は、テレビ版から描いてきたテーマをより深く、より濃く描いたような結末だった。

以下ネタバレになるが、本作では、『THE MOVIE 3』から登場していた小栗旬演じる警察のエリート官僚が黒幕だったことが明らかになる。腐敗した警察組織に憎悪し、復讐と改革を起こすために殺人・誘拐の犯罪計画を実行していたのだ。

後述するがこのエリート官僚の秘められた過去は凄惨だった。罪を犯してしまったものの、現行の警察組織を変えようとしている青島&室井と根っこの気持ちは同じだったのである。