これまで製作されてきたパリの移民政策を背景とした作品
フランスの移民政策があってこそ生まれた作品として、『憎しみ(La Haine)』(1995)、『パリ20区、僕たちのクラス』(2008)、『最強のふたり』(2012)といった作品を挙げることができる。
マチュー・カソヴィッツ監督、主演のヴァンサン・カッセルの出世作となった『憎しみ La Haine』は、バンリューに暮らすアラブ系、黒人、そしてユダヤ人の不良仲間たちの警察との対立、そして死と隣り合わせの青春を描いて日本でも評判になった作品だ。
一方、『パリ20区、僕たちのクラス』はパリ20区にある公立学校でフランス語を教える教師フランソワと、フランス語が母国語ではなく、個々に問題を抱えている移民の生徒たちとの交流、対立、成長を描いたドキュメンタリー・タッチの作品。そして『最強のふたり』は事故で半身不随となったパリの白人大富豪と、その介護人に採用されたスラム街出身の移民の黒人青年(実話ではアルジェリア出身)との、世代や人種を超えた友情の物語。
それぞれの作品はみなジャンルが違うし、同列に論じられることはないが、唯一、“移民映画”と捉えたときにその共通点が見えてくる。つまり、それぞれの物語の背景として、フランス政府による移民受け入れ政策があって初めて生まれ得る物語である点だ。
言葉の上でのハンディがある移民一世たち、パリで生まれ育ったフランス人であるにもかかわらず、その出自からさまざまな差別に直面する移民二世たち。移民たちと共生できる社会の成熟に心を砕く人たちがいる一方で、自分たちが仕事を奪われたのは移民たちのせいだと思い込む者たち。
そこにさまざまなドラマが生まれるのはある意味当然で、それはフランスだけでなく他のヨーロッパ諸国にしても同じだ。昨年公開されたサム・メンデス監督による英国映画『エンパイア・オブ・ライト』(2022)なども、背景としての英国の移民政策があって初めて成立する物語だと言えそうだ。