ファンが捨てたはずのゴミを持ち去り、オークションに
オーブリーによると、ヒプノシスの仕事場は、プロジェクトが増えるにつれてゴミと混沌も拡大。スタジオは散らかり放題だったという。時には掃除に専念して、使わなくなったアートワークや却下された写真などは路上のゴミと一緒にして捨てられた。
今になってヒプノシスにまつわる品々がオークションにかけられているのを見かけるが、実はそれらはそのときに捨てたゴミをファンが引っ掻き回して持ち帰ったものばかり。しかし、彼らはそんなことは気にも留めなかった。
「次の仕事のことで無我夢中だった。ワクワクと興奮していて、後ろを振り返る余裕なんてなかった。前へ進むこと。それが僕たちの日々の規則だった。ヒプノシスのスタジオを通り過ぎていったすべての吟遊詩人、芝居じみた人々、奇人変人に敬意を表したい」(オーブリー・パウエル)
誰かが言ったそうだ。「フロントジャケットは牛だけで、バンドの名前が出ていない。これでどうやってレコードを売るんだ!?」──ピンク・フロイドやレッド・ツェッペリンの作品群に象徴されるように、アーティスト名やタイトルの文字を排除した、演出された写真や斬新なデザインだけの表現手段はヒプノシスの真髄であり、ロックのレコードジャケットが芸術的なキャンバスとなり得ることを証明した歴史的な仕事だった。
文/中野充浩、TAP the POP
*参考・引用
『ヒプノシス・アーカイヴス』(オーブリー・パウエル著/河出書房新社)
『ロック・ミーツ・アート』(ストレンジ・デイズ)