差別を助長するかもという認識が薄いことが大問題
日本では現状、トランスジェンダーの生徒についてどのような対応がとられているのだろうか。
「2016年に文部科学省が発表した、性同一性障害や性的指向・性自認に係わる児童生徒への対応例をまとめた教職員向けの冊子には、トランスジェンダーの生徒のトイレ使用時の対応事例として、『教職員トイレ・多目的トイレの使用を認める』が紹介されています。
女子トイレの使用を禁止する理由として挙げられるのは、周囲の生徒への配慮です。ここでもまた、「なりすまし」問題と同じで、盗撮などの性犯罪を目的とした男性が紛れ込むイメージで、トランスジェンダーの生徒が混乱を引き起こす原因として語られ、対策すべき対象として扱われてしまっています。
しかし実際のところ、どうなんでしょうか。トランスジェンダーの生徒が女友だちと仲よく手を繋いで女子トイレに入ろうとしたところ、先生に止められて、多目的トイレを使用するように指導されたというエピソードを聞いたことがあります。別の例では、カムアウトしていないトランスジェンダーの生徒が、いつもひとりだけ遠くにある多目的トイレを使うので同級生が不思議がり、説明に困るといったエピソードもあります」
ちなみに2024年度入学者よりトランスジェンダーの受験資格を認めた日本女子大学では、トイレ問題に対して学内の建物ごとに多目的トイレを設置することで対応しているという。
東氏は文科省のトイレ問題への対応策をはじめとして、日本の教育現場におけるトランスジェンダーの生徒に対する“区別”や“隔離”には、大きな問題点があると指摘する。
「同じトイレを使わせないでと訴える同級生がいないとは思いません。しかし、その理由が不安によるものなら、その不安を解消するための対話や教育など、あらゆる努力をすべきであって、問題解決の手段がマイノリティの隔離であってはならないと思います。
トランスジェンダーを他と区別したり、隔離したりして周囲とは違う対応をすることは、その生徒の尊厳を大きく傷つけることになります。
文科省が紹介しているトイレの対応事例もそうですが、日本ではマイノリティの生きづらさを想像し、問題解消を図ろうとするよりも、『周囲の理解、周囲への配慮』が優先されてしまう。声をあげたくてもあげられない、声をあげても届かない中で、彼らの生きづらさはいつまでも放置されてしまうことになります。
トランスジェンダーの生徒の生きづらさを解消していくためにも、まず何に困っているのか、どんな風に困っているのかに耳を傾け、想像力を働かせることが重要だと思います」
取材・文/瑠璃光丸凪/A4studio 写真/shutterstock