なりすまし問題、本来は女子校での論点ではない?

「まず大前提として、女子校といった教育現場において、なりすまし問題の可能性は限りなくゼロに近いので、論点のひとつになっていること自体がおかしいと感じます。公衆浴場や商業施設のトイレなど不特定多数の人が出入りするような場所と、学校というある意味閉ざされた空間で起こり得る問題は、まったく別ものと考えるべきでしょう。

そして、中学生なら12歳、高校生なら15歳という生徒が女子校に忍び込むために、意図的に性自認を偽って女性になりすますというのは、想定としてあまりに非現実的。自分の家族や近隣住民、教員、友人との密な関わりがある中で、それらをすべて騙して『下心』だけで入学までこぎつけるということを子どもがするでしょうか」(東氏、以下同)
 

入学後にトランスジェンダーではなかったと気づくことはあっても、女性に対する下心や悪意を持って最初から入学する子どもはいないに等しいとのことだ。

「学校というのは、馴染ある顔ぶれが日常生活を共にし、勉学や諸活動に励む場です。ある意味閉ざされた世界なのであって、かつトランスジェンダーの生徒は完全なマイノリティです。入学前から注目される『学年や学校にたった一人』であるという状況を想像してみてください。

トランスジェンダーの存在が脅威になるかのように語る周囲や社会が、その生徒にとって学校を不安全で生きづらい場にしてしまうことはあっても、その逆は限りなくありえない話なのです。むしろ、そうした語りが子どもの尊厳を傷つけ、教育の機会を奪いかねないだけに、そちらの問題のほうがよほど深刻です」

女子中高で“トランスジェンダー受け入れ”が進まない本当の理由「下心ある男がいくらでもなりすませる」などと茶化していていいのか《日本の教育現場が抱える曖昧さ》_2

なるほど、現実的に考えれば女子校へのなりすまし問題はほぼ心配ないということか。とはいえ、保護者のなかにはそれでもなりすましを不安視する層もいるだろう。「なりすまし」を排除するための審査など、対策はどうあるべきなのだろうか。

「戸籍や出生証明書上の性別とは異なる性別で入学を希望する場合、おそらくその生徒は事前に専門外来に連れて行かれるなど、専門家のアセスメントを受けているはず。診断書の提出を求める学校が多いという話も聞きます。しかし、専門家の意見書があり、本人の自己判断・自己決定能力に問題がないことが確認できれば、それ以上の過剰な審査は必要ないと思います。

「なりすまし」といった事件が起こると、「ほらやっぱり」といった声がトランスジェンダーの子どもたちの耳にも届くことでしょう。犯罪者と同一視されたり、そうした疑いの目を向けられることは、当事者にとって恐怖以外の何ものでもないはず。トランスジェンダーの生徒を危険視するよりも、彼らをそうした恐怖から守ってあげるために、私たち大人には何ができるだろうかという想像力を持つことこそが大事ではないでしょうか」