セカンドレイプを防ぐのも大人の責任
性暴力にあった被害者のこころを深く傷つけるのが、二次加害(セカンドレイプ)です。セカンドレイプは、性犯罪発生の原因を被害者に求める、いわゆる自己責任論的な考えです。なんらかの性被害にあった人に「そんなところにいたあなたが悪い」「そんな露出の多い服装をしているからだ」など、被害者の落ち度をあげつらい、被害者は被害そのものだけでなく、周囲の無理解によって深く傷つき追い込まれ、孤立することもあります。
#MeTooやジャニーズ事務所の性暴力問題で、インターネットを中心に「売名行為だ」「告発されて人生を台無しにされた加害者のことも考えろ」などといった心ない言葉が告発者に投げかけられている現状は、由々しき事態です。
子どもの性被害においては、さすがに「売名行為だろ」と言う人はいないと思います。しかし、まだまだその実態が理解されていないことから、大人の発した不用意な言葉が子どもを深く傷つけ、結果的にセカンドレイプになることも少なくありません。
繰り返しますが、性被害を受けた子どもは自分で被害を認識することが極めて困難なうえ、被害にあったこと自体を「恥ずかしい」と感じていること、さらに加害者に口止めされている場合は「人に知られてはいけないのではないか」と罪悪感を抱えていることから、自分から被害を打ち明けられないものです。
また、もしこの秘密をカミングアウトしたら、自分がいまいる世界がすべて崩壊するのではないかといった恐れを抱くこともあります。そんな彼らが大人たちに相談するということは、ハードルが高く、並大抵のことではないという点をまずは心得ておきたいものです。
そのうえで肝心なのは、性被害を打ち明けられた大人は、子どもの言葉を絶対に否定しないことです。「何かの誤解なんじゃないの?」「あんなにいい先生がそんなことするわけないじゃない」と親から言われてしまうと、子どもは被害についてそれ以上話そうとは思えなくなります。
また「なんで『やめて!』とちゃんと言わなかったの?」「大きな声を出さなかったあんたが悪い」など、被害にあった子どもを責めるような発言は絶対に避けましょう。
たしかに性被害を打ち明けられた大人の立場からすると、被害者支援の専門家でもない限り、やはり動揺してしまうものです。また第1章の事例でも挙げたように、加害者は周囲の評判がよく、大人たちもすっかり加害者を信用しきっているなかでグルーミングをするのが特徴です。
指導熱心な先生、人当たりのいい近所のお兄さん、面倒見のよいシッターさん……信頼していた人が実は小児性犯罪者なのかもしれない――大人にとっても、まさに青天の霹靂です。たとえ親といえども、子どもの告白に混乱と驚きを覚えるのは無理のない話です。
しかし、どうかその言葉はぐっとこらえてください。そしてまずは子どもの話を否定せず、「よく話してくれたね」「話してくれてありがとう」「本当に大変だったんだね」と全面的に受け止めてあげてください。
そのうえで、「あなたは絶対に悪くない」と被害を打ち明けられた大人が子どもにしっかりと伝えること、そして「あなたの受けた加害行為は絶対に許されない犯罪行為である」と伝えることが大切です。
さらに被害の詳細については、深追いしないことです。親は心配のあまり、「こんなことされなかった?」「あんなことはなかった?」など、事細かに聴き取りをしたくなると思いますが、子どもは記憶の変容が起きやすく、誘導尋問のように何度も繰り返し聞くと、そのような事実はなかったにもかかわらず、あたかも自分が本当に経験したように記憶してしまうことがあるともいわれています。これをフォールスメモリー(偽りの記憶)と呼びます。
あなたが受けたのは性暴力で、あなたは一切悪くない。悪いのは加害者だ――そうやって被害を認めてもらうことで、子どもは初めて「被害者」になるのです。そして、こうやって「加害者」の輪郭も明らかになっていきます。すべての加害や被害からの立ち直りの道筋は、ここから始まります。