描くものの捉え方で感じる性差

同年代の人たちが上京するようになって、フランクに「お互いにこういうところに苦労するよね」なんて話せるのってすごくいいなと思いました。どんな分野でもそうでしょうけれど、同じような立場で同じような苦労を分け合って支え合う仲間ってすごく大事だと思います。

今はインターネットで何でも調べられますが、少し前までは古今東西のファッションや建築などは資料本に頼るしかなく、やたらと資料をためこむ私は、男女問わず、よくお貸ししたものです。

そしてその中で、時々「男女の違い」を感じることがあって面白かったです。常々、この仕事に男女の差はない、と思っているのですが……世代にもよるのかもしれません。ベテランの男性マンガ家に、服装や髪形に関する資料を貸すと「正面から見たものしかないね。これでは後ろ姿が分からない」と言われることが多かったのです。

正面の様子から、十分に背面も想像できるはずなのに……と不思議に思ったものですが、このあたりに男性と女性が物の形を把握する違いがあるのかもしれません。

女性の髪の流れやヘアスタイルなどに、あまりピンとこない男性もいるのでしょう。けれども、私は私で「男ならすぐにピンとくるよ」と言われても、メカには自信がありません。特に戦闘機には苦労しました。

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プラモデルの戦闘機のイメージ 写真/Shutterstock.
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プラモデルを、上下左右あらゆる角度から見ながら描いた戦闘機の絵を、その分野が得手の大先輩に「エンジンの重力が感じられない」と言われたことがあります。

武器やメカの「形」は描けても「重み」までは、そもそも私には理解不可能です。

でももう、男性だからファッションが分からないとか、女性だからメカが描けないという時代ではありません。

後輩には、ヘアスタイルやファッションの表現に隙のない男性が多くいるし、男性的感性で少年マンガを描く女性マンガ家も増えました。何よりも、男性とか女性とかの特質を乗り越えた作品が多くなりました。マンガの世界はもう性差を気にしていないのです、読者も作者も。

文/里中満智子

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里中満智子
「なぜ自分が少女マンガなんかの担当に」マンガ家・里中満智子が目撃した1970年代の現場…編集者はおじさんばかりで、マンガが下に見られていた時代_6
2024年1月22日発売
1,760円
単行本・240ページ
ISBN:978-4120057304
1960年代のデビュー以来、数々のヒット作を世に送り出してきたマンガ家・里中満智子。近年は自らの創作のみならず、日本マンガ界を牽引する立場としての活動も高く評価され、文化功労者にも選出された。
「すべてのマンガ文化を守りたい」との想いを胸に走り続けてきた75年の半生を自ら振り返り、幼少期から現代、そして未来への展望までを綴る。
高校生にしてプロの漫画家デビューを果たした著者だが、決して順風満帆ではなく、ジェンダーギャップで叱責をあびたり、読者からの抗議を受けたり、がんを患ったり、まるで朝ドラを見ているような半生が、これでもかと詰められている。顔の広かった著者ならではの、レジェンドのマンガ家たちとのやりとりも、多数収録。
当時を知る人には共感を、当時を知らない世代には新しい発見をもたらす1冊。
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