【惜別・叶井俊太郎】末期がんで余命1年宣告が「サルの脳みそ」を飲んで10年延命…1日60本の葉巻を吸い続けた鈴木敏夫が見たジブリをつくった男の最期の矜持
漫画家・倉田真由美氏(52歳)の夫で映画プロデューサーの叶井俊太郎氏(享年56歳)が今月16日に死去した。2022年6月にステージ3の膵臓がんと診断を受け、医師から「余命半年」の宣告を受けていた。「がん」公表後も変わらず、精力的に映画製作に携わり続ける生粋の仕事人だった叶井氏。哀悼の意を表して、末期がん患者と著名人による対談本『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(サイゾー)よりスタジオジブリ代表・鈴木敏夫氏との対談を一部抜粋してお届けする。
末期がんになった男の余命半年対談#1
がんに効くと「サルの脳みそ」を飲んで10年延命した徳間書店初代社長
鈴木 違う違う。知らないんだけど「オレが店の主人だったら、あのあたりに喫煙所を作るな」って本能的に分かるの。アカデミー賞に行ったときもルーヴル美術館に行ったときも「喫煙所はここかな」と思ったら、あるんだよ。
叶井 世界中の喫煙所、全部分かりますね。
鈴木 全部分かる。しかし話がぜんぜん本題にいかないねぇ。
叶井 いいんですよ、こういう話で!
鈴木 がんのこと、奥さんはなんて言ってるの?
叶井 悲しんでました。オレは全然悲しくなかったけど。去年の6月に「余命半年」って言われて「あー、半年か」って思うくらいでした。そこから1年たちましたね。
鈴木 これはもう今だからしゃべって構わないと思うんだけど、ジブリをつくってくれた徳間康快(徳間書店初代社長)も、がんで「余命1年」って言われて、そこから10年生きたんですよ。
叶井 マジですか? 10年? じゃあ一度治ったんでしょうね。
鈴木 分かんないけど、いろいろやってたよ。サルの脳みそ飲んだり。
叶井 サルの脳みそ……?
鈴木 それが効くってんで、さじでつまんで何かに溶かして飲んでた。太陽の光を浴びると、本当に美しかった。
叶井 鈴木さんの本(『歳月』岩波書店)で、徳間さんのスーツを形見分けしようとする顛末があったじゃないですか。あれを読んでびっくりしたんです。徳間さんって、すごくガタイがいい人だとオレは思ってたんだけど、スーツの内側全面にパッドが入っていて本当はすごい痩せていた、って。
鈴木 痩せてた。本にも書いたけど、亡くなる3日前に主治医から「隣のベッドに身体を移動して」って頼まれて「ぼくひとりじゃ無理ですよ」と答えたら、「軽いですから」って言うの。持ち上げてみたら、本当に軽かった。僕がいちばん悲しかったのは、そのときです。
叶井 病気で痩せたわけじゃなくて、もともと細かったと言うことですか。マジで驚いたんですよ、あのスーツの話。
鈴木 そう。「人は見てくれが大事だ」って言ってね。あの人は本当にそういう人だった。やっぱりすごいと思ったよ。でも余命宣告されたときは、さすがに荒れたらしいです。自宅の2階に部屋があったんだけれども、自分の部屋のテレビを階段の下に投げ捨てたりして。でも、そこからもう一度とにかく働き始めた。
#2へつづく
#2 末期がんで20キロ痩せた映画P・叶井俊太郎が中学の同級生でラッパー・Kダブシャインと振り返る“チーマー以前”の渋谷
構成/斎藤岬 写真/二瓶綾
『エンドロール! 末期がんになった叶井俊太郎と、文化人15人の“余命半年”論』(サイゾー)
叶井俊太郎
2023年10月30日
¥1,650
312ページ
ISBN:978-4-866251776
『末期がん患者との対談本って、 今までにない前代未聞の企画じゃないですか?
いやーかなり楽しかった!
皆さまご協⼒ありがとうございました。
おかげさまで伝説になりそうな本が完成しました。』――叶井俊太郎 まえがきより
『夫のがんが判明した昨年は、⼈⽣で⼀番泣いた⼀年だった。
「なんで泣いてるの」 泣く私に、いつも夫は⾔う。
「泣いても仕⽅ないでしょ、治らないんだし。泣いて治るなら俺も泣くけどさ」
夫はがん告知されてから⼀度も泣いていない。』――妻・倉⽥真由美(漫画家)あとがきより
映画業界では知らない人のいない名物宣伝プロデューサー・叶井俊太郎(かない・しゅんたろう)。
数々のB級・C級映画や問題作を世に送り出しつつも結局は会社を倒産させ、
バツ3という私生活を含めて、毀誉褒貶を集めつつ、それでもすべてを笑い飛ばしてきた男が、
膵臓がんに冒された!しかも、診断は末期。余命、半年──。
そのとき、男は残り少ない時間を治療に充てるのではなく、仕事に投じることに決めた。
そして、多忙な日々の合間を縫って、旧知の友へ会いに行くことにする……。
本作は、膵臓がんで余命宣告を受けた叶井俊太郎の対談集です。
対談相⼿は、鈴⽊敏夫、奥⼭和由、Kダブシャイン、ロッキン・ジェリービーン、樋⼝毅宏、柳下毅⼀郎、宇川直宏、中原昌也、江⼾⽊純、河崎実、清⽔崇、豊島圭介といった、叶井をよく知る映画監督、⼩説家、評論家、デザイナーなどに加え、妻・倉⽥真由美との出会いにかかわった編集者・中瀬ゆかり、作家・岩井志⿇⼦、中村うさぎといった⼥傑たちまで、実にさまざまです。
話題は叶井俊太郎の特異な処世術・仕事術や、90年代サブカル映画界隈のハチャメチャすぎるエピソード、バツ3の叶井俊太郎に友⼈を紹介する奇特な⼥性たちとの思い出話など。それらが爆笑とともに(本当に笑っている)語り尽くされます。 また、対談の後半では叶井俊太郎が対談相⼿に「余命半年を宣告されたら、あなたならどうする?」と質問。末期がん患者を相⼿に⾃らの余命に思いを巡らせるという、厳かでスリリングな展開が訪れます。
この本は、ひとりの映画⼈の業界冒険譚であると同時に、各界の⽂化⼈たちの“余命半年”論を通して、命との向き合い⽅を考え直すものとなっております。