2025年には65歳以上の3人に1人が認知症とその予備軍だと推定され、発症すればその平均余命は10年程度とされている。

そして、その認知症の原因である「脳のゴミ」がたまり始めるのは、なんと発症の20年以上前からだという。

無症状のまま進行し、「もの忘れの自覚がない」などの症状が出た時点で、脳はすでに重いダメージを負っているのだ。仮に50歳で認知症を発症すれば、30代半ばからその種は育ち始めていることになる。

そんな惨事はできることなら避けたい。若いうちから認知症を発症させない努力を惜しまないことが肝要だ。そこで、医学博士で、一般社団法人認知症協会代表理事の山根一彦氏に、「30代からはじめる認知症予防」について教えてもらった。

――認知症の原因である「脳のゴミ」ってなんのことですか?

認知症、ここではアルツハイマー病患者のことを指しますが、彼らの脳を解剖すると、斑点状のシミのようなものが確認されます。このシミの大部分を作っているものの正体が、アミロイドβというタンパク質のかけらです。普通、アミロイドβは脳で作られては分解され、洗い流されていきます。

ただ、このアミロイドβが作られる量が多くなりすぎたり、洗い流すことができなくなったりすると、そのまま脳に溜まっていくのです。

溜まったアミロイドβ同士はお互いにくっついて、ますます分解されにくく、洗い流しにくくなります。そして脳の神経細胞に悪さをする毒となってしまうのです。このような状況から、アミロイドβは「脳のゴミ」とされています。

――そもそもアミロイドβって、どんな役目なんですか?

「脳のゴミ」と言われているアミロイドβですが、実は脳を守るために重要な働きをしていることもわかってきています。

例えば、アルツハイマー病患者の脳には通常存在するはずのない様々な病原体がひしめいていることがあります。口内のバクテリア、顔や唇のヘルペスウイルス、鼻から入り込んだカビ、ダニがもたらすボレリアなどです。

こうした異物が侵入した時に脳は炎症状態になり、アミロイドβを作って対抗します。つまり侵入者をとりこんで殺してくれるわけです。

しかし、 病原体の脳への威力が強力だったり、絶え間なく病原体が押し寄せて長引いたりした場合は、アミロイドβが際限なく増え続け、その毒性で外敵である病原体もろとも正常な神経細胞まで殺してしまいます。それが長い時間をかけ、認知症を引き起こすのです。

※認知症は正確には症状のことであり、認知症を引き起こす病気は複数存在し、その中でアルツハイマー病の患者が急増しており、認知症全体の70%近くを占める。そのため、この記事では、アルツハイマー病が引き起こす認知症について扱う。