祭りのクライマックスに向けて、裸の男たちのボルテージも頂点へ
午後8時30分頃になると、再びふんどし一丁の男たちが本堂に集まり、薬師堂の格子戸に登り、「ジャッソウ、ジョヤサ」の掛け声が境内に響き渡る。
いよいよ「蘇民袋争奪戦」が始まるのだ。
開始直前には「鬼子登」(おにごのぼり)と呼ばれる、数え年で7歳の男児が麻衣をつけ、鬼面を逆さに背負い、大人に背負われて本堂に登る。そして住職が曼荼羅米をまき、護摩台に燃え盛る松明が置かれる。
その最後に「蘇民袋」が会場に持ち込まれると、争奪戦が始まる。
「蘇民袋」には将軍木(かつのき)で作った小間木(こまき)といわれる「蘇民将来護符」がぎっしり詰まっており、男たちはそれを奪い合う。小間木や麻袋の切り裂かれたものを持っている者は、災厄を免れるといわれており、最後に袋の締め口の下にあたる「首」の部分を握っている人が「取主」と呼ばれる栄誉と賞品を得られるのだ。
ふんどし男たちのほとばしる湯気が立ち上る
ふんどしも外した男性が格子戸から群衆の中に飛び込むと「蘇民袋争奪戦」が開始された。
争奪戦が開始されるやいなや、袋をめがけて一斉に手を伸ばす男たちによる壮絶な「押しくらまんじゅう」状態に。最後の蘇民祭を見にきた見物人、報道のカメラなども巻き込んで押し合いへし合い。
「オリャー」
「ジャッソウ」
「ジョヤサ」
押し合いの中で気合の入った声が飛びかい、男たちの体からは沸騰したお湯のような湯気が立ち上る。押し合いの中、ふんどしが外れて完全な裸になる参加者もチラホラ。
40分ほど本堂の中で揉み合いが続いた後は、境内の外に出て争奪戦を継続。
開始から1時間後の午後11時過ぎ、最後は「親方」や祭りの世話人たちが介入して、勝者である「取主」の判定を行ない、ついに決着がつく。決着と同時に、争奪戦に参加したふんどし男たちや見物人から拍手がまきおこった。
今年の「取主」は同祭保存協力会青年部の菊池敏明部長だった。
争奪戦後に行われた「取主」に選ばれた菊池さんの囲み取材では「『準取主』にはたくさんなったことがあるが、28回くらい参加して最後にしてやっと取れた。気持ちとしてはふだん通りに祭りが安全にできればいいなと思っていたが、今回は人の多さに闘志が湧きました」と感想を語った。
そして、蘇民祭の魅力や最後のことを尋ねられると「蘇民祭は参加した人にしかわからない魅力がある。参加しないと得られるものがたくさんある。蘇民の信仰は形は変わるかもしれないが、残していきたい」と幕を下ろした祭りの今後のことも話していた。
――今回で最後となった蘇民祭だが、見物にきていた人からも「来年以降も本当は見たい」などの存続を望む声が多くあがった。担い手の高齢化に伴い、祭りの形としては今年で一度幕を閉じるが、いつかまたふんどし姿の男たちの勇姿に出会いたい。
取材・文/集英社オンライン編集部 撮影/村上庄吾