日本とは異なる風習、価値観、法律に戸惑うが……

『FEAST~狂宴~』を見ていて、時々「アレっ?」と感じる瞬間があるのは、日本とフィリピンとの風習や価値観、そして何よりも法律の違いだ。わかりやすいところでは、日本では喪服や霊柩車は黒と相場が決まっているが、フィリピンではどちらも真っ白なこと。

もっと物語の根幹に関わる部分では、息子(ココ・マーティン)の運転するトラックがわき見運転で荷車付き原付の被害者側に追突事故を起こした後、けが人を救護して救急車を呼ばず、その場を立ち去った加害者親子が、“ひき逃げ”によってより罪が重くなるとは考えていないように見える点がある。

「今できることは何もない」と呟く父親(リト・ラピッド)の様子からは、今この場で逮捕されても、後で加害者として特定されて逮捕されても違いがない、というニュアンスが感じられる。

事故直後に血糊が付いたバンパーをガソリンスタンドで洗車して証拠隠滅しようとするシーンはあるものの、警察の捜査の手が及んでも逃亡しようとする素振りはまったくなく、同じ逮捕・禁固刑に処されるのであれば、家族との別れの時間や心の整理の時間を持ってからのほうがいいと考えているように見える(日本だと“ひき逃げ”が加われば当然罪が重くなる)。

被害者家族に目を向けると、荷車に乗っていた娘は軽傷で済んだものの、原付を運転していた父親は重傷で生命維持装置なしには生きていられなくなる。三人の子供を抱え、高額な医療費をとても払えない妻(グラディス・レイエス)は、これ以上の苦痛から夫を解放するべく、涙ながらに生命維持装置を外す選択をする。

映画『FEAST~狂宴~』 ©2022 HONG KONG PICTURES HEAVEN CULTURE & MEDIA COMPANY LIMITED .All RIGHTS RESERVED.
映画『FEAST~狂宴~』 ©2022 HONG KONG PICTURES HEAVEN CULTURE & MEDIA COMPANY LIMITED .All RIGHTS RESERVED.


日本では医療従事者が行なおうが家族が行なおうが確実に罪に問われるが、フィリピンの法律ではどうも合法的な行為として認められているようだ。