部活で青春をする保護者たち

内田 本当に『ラベンダーとソプラノ』は、部活の当たり前を次々とぶっ壊していく小説でもありますよね。

額賀 でも、やっぱり小説を一冊書くと、書きこぼしたことが次々出てくるんですよ。それも本が発売されてから。『ラベンダーとソプラノ』でも、部活動における保護者の問題をもうちょっと書きたかったと思いますし。

内田 逆によく書いてくれたと思ってます。何でこんな全部分かっているというか、私が部活についてずっと研究で調べてきたことを、何でこんな的確に表現なさっているんだろうと、すごく面白くて。

額賀 取材でさまざまな部活の顧問の先生にお話しを伺う機会があるのですが、やはり保護者との関係は難しいみたいですね。全国大会常連の強豪ほど大変だと聞きます。強豪校の顧問を異動してきた先生が引き継いだときなんて、本当に苦労すると。

内田 『ラベンダーとソプラノ』で、長谷川先生を「全国行ってよ」と叱りつけた保護者がいましたけど、あれ、本当にあるあるですよ。保護者に囲まれたという話は何回も聞いたことがある。まさにこれ。

額賀 これを取材先で聞いたとき、怖かったです。子供たちは前の先生のやり方で結果が出ているから、新しい先生は余計なことしないでくださいとか言われるらしくて。生徒も生徒で、新しく来た先生のやり方に懐疑的だから、先生自身がリーダーシップを取るまで時間がかかったそうです。

内田 きついですね。

額賀 でも、私が取材した先生たちは顧問一年目で結果を出せた人が多かったんですよ。その実績で、やっと保護者が任せてくれるようになったと。早いうちに全国に行けてなかったらやばかった、強豪校の保護者は怖いですよというふうにおっしゃっていました。

内田 そう思うと、学校って何をしているんでしょうね。

額賀 先生と生徒を飛び越えて、保護者が一番青春をしちゃっている状態になっていると、生徒と先生だけでは止められない。先生がどれだけ部活を緩くしようと思っても緩まらないとか、問題のありかがより複雑になりますね。

内田 だから、トップダウンでブレーキをかける仕組みが必要なんです。部活が過熱する理由というのは、楽しいからだし、頑張れば成果が得られてもっと頑張る。だからこそ、当事者自身には任せてはいけない。校長や教育委員会・国が、週三日までだよってブレーキをかけないと。大会の参加条件も週三日までと決めれば、みんな週三日という決められた時間内でどう勝つかと考える。そういうふうな仕掛けを作っていかなきゃいけないんですよね。そうすれば、みんなもっと楽に、体を壊さない形でやれると思います。

額賀 部活の地域移行もそうですが、トップダウンで練習週三日までと決めると、まず現場の顧問の先生と生徒と保護者が反発するじゃないですか。その反発を押しのけて実行する勇気が必要なんですかね。

内田 こうした場合にこそ、トップの強い決定権を使ってほしいです。下に行けば行くほどできないから。東京都の教育委員会は今年(対談当時)、保護者向けのチラシ(「学校における働き方改革へのご理解及びご協力のお願い」)を作って、高校教員の定時は朝八時半から夕方五時までですというのをどーんと出しているんですね。今までは保護者の顔色をうかがっていたのが、いやいや、定時だからと。やっとそういうことが声高に言えるようになってきたのかなと思います。

「先生の仕事は一体どこまで?」額賀澪さん(作家)が内田良さん(教育学者)に会いに行く【後編】_3

『教育現場を「臨床」する――学校のリアルと幻想』 内田良(慶應義塾大学出版会)
疲弊する教師、校則、部活動、感染症――。子どもをめぐる不合理。


学校における喫緊の課題である「部活動」「校則」「虐待といじめ」などの問題を、著者独自の観点から多角的に分析。

学校の虐待といじめは増えているのか。部活動はだれにとって問題なのか。校則は変わるのか。データを丁寧に分析し、結果から見える「真実」、そして子どもたちや教師たちの「苦悩」がどこにあるのかを明らかにする。