親の関心を引きたくて自殺未遂を重ねる

小学4年生のとき、小川さんは突拍子もない行動に出る。

母親と些細なことで言い争った後、「死んでやる」と泣きわめきながらベランダに出て、手すりに足をかけて身を乗り出したのだ。自宅はマンションの7階にある。落ちれば死んでしまうことはわかっていた。

なぜ、そんなことをしたのか。理由を聞くと、小川さんはポツリとつぶやく。

「親に振り向いてほしかったのかな……。子どもが自殺未遂みたいなことをしたら、抱きしめるっていうのが正常な反応じゃないですか」

ところが、両親は止めにも来ない。父親は見て見ないふりをし、母親はわざと大きな音を立てて家事をし始める。小川さんはそのまま泣き続けた。

1、2時間後、泣き疲れて部屋に戻ると父親が一言、「大丈夫か?」と声をかけてくれたが、それ以上は何も言わないし、聞いてもくれない。

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「放っておけば、そのうち収まるだろうみたいに親は考えていたんじゃないかな。ヒステリーを起こしたときの母親がそうだから、僕もそうだろうと。それに母親は完全にキャパオーバーだったんでしょうね。ある一線を越えてしまうと、徹底的に無視するんです。

飛び降りようとしたのは、小学生のときだけでなく、中学生のときも、ひきこもり始めてからも、数えたらゆうに100回以上ありますけど、全部無視です。台所で包丁を自分に突き付けて、一晩中泣き叫んだときもそうでした」

息子をどう扱えばいいのかわからず、両親もお手上げだったのかもしれない。だが、自分たちが選んだ“無視する”という行為が、我が子の心に深い傷を残していることには気が付かなかった。そのときの気持ちを小川さんはこう言い表す。

「自分が真面目にどれだけ必死にやっても相手にされない。だから無力感みたいなものもあったし、自分に自信も持てなくなってしまって……。結局、その相手にしてもらえない積み重ねが、おそらくこう、パッカーンとなって、抑うつや適応障害につながったんじゃないかなと思います」