閉店までずっとこだわり抜いてきた一杯
「ご無沙汰しております。まだ公表してませんが竹千代も近々閉店する予定です」
9月末、X(旧Twitter)のDMに一件のメッセージが飛び込んできた。北区にある名店「中華そば 竹千代」のオーナー・加藤さんからのメッセージだった。
「中華そば 竹千代」は2019年4月にオープン。JR尾久駅から徒歩1分のところにある。
スープは動物系不使用で、長野産の干し椎茸と天然利尻昆布の旨味溢れる澄み切った清湯系。醤油は京都の明治3年創業の竹岡醤油を使用。
旨味と奥深さが素晴らしく、一切ムダのないまっすぐな美味しさはまさに感動レベルだ。
『TRYラーメン大賞2019-2020』では新人しょうゆ部門で2位を受賞した。「食べログ」でも3.71点(2023年12月16日現在)と高得点の評価。
順風満帆と思われた「竹千代」の閉店には驚きを隠せなかった。
ここまでの「竹千代」の歩みは平坦なものではなかった。オーナーの加藤さんが酒の席で「ラーメン屋をやる」と公言をし、その後食材探しの旅に出た。4年間全国各地を食べ歩き、最後の1年で味を整えていった。
もともと父親が和食の料理人をしていて、鶏1羽をさばいて煮込んで作る鍋が加藤さんの記憶の中にあり、そんな味を目指して試作を続けていた。最初は鶏ガラ、豚ガラ、野菜などを使い、一般的なラーメンの作り方で試作していた。
しかし、市販の鶏ガラだけでは思ったような味が出ない。発想を転換し、別の食材で旨味成分を補えないかと考えた。そこで加藤さんが使ったのが乾物系だった。
通常のお店だとスープの下支えをする役割を担う干し椎茸(どんこ)や昆布が「竹千代」の清湯スープでは主役となり、旨味の大きなポイントになっている。これほどまでに椎茸の旨味を感じるラーメンにはなかなか出会ったことがない。
「ダシをとる時の“適温”というものが食材ごとにあるんです。例えば昆布の場合は5℃、どんこの場合は70~80℃ぐらいがベストで、決して沸騰させてはいけません。
低温でじっくりダシをとることでしっかりとした旨味が出てきます。それぞれの食材から適温でダシをとり、最後に合わせますが、その時も沸騰寸前で火を止めます」(加藤さん)