国産のクリスマスソングとしては最高峰の楽曲というポジションに
3万枚限定のピクチャー・レコードとして12月にシングルカットされたのは、クリスマスソングとして秀逸な出来だと気付いたスタッフがいたからだろう。
この歌のよさを多くの人に知らせたい。最初の動きはそこから始まったのだった。
それ以降は年末の季節限定商品として、カラー・ヴィニール、ピクチャー・レーベルと趣向を変えてリリースされ続けた。
そして1988年にCMに使用されたことをきっかけに、CDシングルがロングセラーを記録し、『クリスマス・イブ』はチャートにランクインしてから30週目にして遂に第1位に到達した。
移り変わりの早いエンターテインメント・ビジネスの世界において、数年前に作った作品が発見されるということは、そうめったにあることではない。
ましてやそれが日を追って高く評価されたり、広く認められたりするとしたならば、制作者冥利に尽きるだろう。
大ヒットした『クリスマス・イブ』は4年連続でCMに使われたことで、国産のクリスマスソングとしては最高峰の楽曲というポジションを得ていく。
ソングライターとしての山下達郎は、都市生活者の孤独や疎外をテーマに取り上げる。目指している音楽が完全に洋楽志向なので、メロディに日本語を乗せるにはあまり言葉に意味を持たせないほうがいいと考えているという。
そのために人間の内面よりも、自然や季節を歌うようになったそうだ。そうした技法が見事に具現化したのが、『クリスマス・イブ』だった。
職人が自分の能力の限り追い求めて作った曲が、リスナーによって年月を経て正しい評価を得ていく。そう考えればこの国の人たちも、この国に生きることも、まんざらではないようにも思えてくる。
だが、山下達郎は音楽を仕事にする人に対して、こんなことも語っている。
「新人バンドなどがよく説得される言葉が『今だけ、ちょっと妥協しろよ』『売れたら好きなことができるから』。でもそれは嘘です。
自分の信じることを貫いてブレークスルーしなかったら、そこから先も絶対にやりたいことはできない。
やりたくないことをやらされて売れたって意味がない。そういった音楽的信念、矜持(きょうじ)を保つ強さがないと、プロミュージシャンは長くやっていけないのです」
『クリスマス・イブ』という長い生命力を持つ歌が、職人であることを徹底することの素晴らしさと、それがいかに難しいことなのかを教えてくれる。
文/佐藤剛 編集/TAP the POP
参考文献/引用
「職人でいる覚悟」山下達郎が語る仕事-2(朝日新聞デジタル)