ラジオを聴いて頭をよぎった「忠誠」という単語

もう何年も前だけれど、ラジオで山下達郎さんが、アナログレコードとデジタル録音の違いをコップに水を貯めることに例えて解説していた。コップにバケツの水を入れようとすると溢れる、その溢れた部分が「グルーブ」といわれるもので、デジタルは水を注ぐものがコップではなく風呂桶サイズだから溢れるわけがない、みたいな内容だった。およそ頭が論理的でない私でも、「なるほど!」となった。

知性とは自分の頭で考え発言できる性質を指す。むずかしいことやぼんやりとしていることを噛み砕いて話せることは知性だと思う。山下達郎さんを知性のある人だと勝手に思い込んでいた。7月9日放送のラジオ番組「サンデー・ソングブック」を聴くまでは。あの日のラジオでの、ごくシンプルな話を、ずらしにずらし、こねくり回して、自己防衛に走る様子は知性とはかけ離れたものだった。

2022年6月には実に11年ぶりとなる、通算14作目のオリジナルアルバム『SOFTLY』をリリース。おりからのシティポップブームもあいまって、オリコンランキングでチャート1位となるなど、大ヒットに
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性暴力・性加害を知らなかったといい張るのはさて置き(スタジオに篭りきりで新聞も週刊誌もニュース番組もネットニュースもご覧にならないのでしょうか。もしかして、スマホをお持ちではないとか?)、松尾潔さんの「社長の記者会見を。これを機に膿を出し切って」「第三者委員会を設置すべき。事務所下にある再発防止チームではそれに当たらない」というごくまっとうで地に足のついた発言を、どうして「憶測に基づく一方的な批判」といい切ってしまえるのだろうか。

そして、性加害については「本当にあったとすれば、許しがたいこと」といったそばから、その疑惑をかけられているジャニー喜多川氏への敬意と賛美を重ねる様は、なんというか「忠誠」という単語しか思い浮かばなかった。いや、疑惑をかけられているというより、実際の被害者たちが次々と名乗りを上げている状況で、ラジオ番組を使い、その功績を長々と称えることの異様さに気がつかないことに驚く。「スマップ」「嵐」「男闘呼組」と解散・活動休止したグループの名前を次々と出したのも、唐突すぎて意図がわからない。

性加害について知りようがないからコメントを出しようがないというけれど、そこではなく、松尾さんのごくまっとうな発言がジャニーズ事務所に都合が悪いから、スマイルカンパニーが松尾さんを一方的に切り捨てたことへの容認が批判されていたはずだが、意図的にずらしているのか本当に理解していないのか。
幹部の如く松尾さんと事務所の契約内容などについて詳細を話す一方で、自分のことを「一タレント」といったり、「作品に罪はない」といったかと思うと、自分の発言を理解できない人には自分の音楽は不要といったりする。もしこの発言が原稿として校閲に出されたら、「?」の赤ペンで真っ赤になりそうだ。