日本のワクチン政策の2つの前進――
HPVワクチンと新型コロナワクチン
この数年、日本のワクチン接種の環境において大きな前進が2つありました。
1つは、新型コロナウイルス感染症に対するmRNA(メッセンジャーRNA)ワクチン提供が非常にうまくいったことです。これは当時の政府、内閣、厚労省ら関係諸氏の功績だと思っています。
もう1つは、ヒトパピローマウイルス(HPV)ワクチンの積極的勧奨が再開されたことです(*1)。とはいえ、HPVワクチンについては、巨大なマイナス状態だったのが、ようやくスタート地点に戻ったという感じではあるのですが。
これまで日本は、予防接種による感染症の予防にあまり積極的ではありませんでした。日本の制度は世界の先進国に大きくおくれを取り、だからこそ「ワクチン後進国」というありがたくない評価を得てきたのです。
しかし、世界を震撼させた新型コロナウイルス感染症の世界的流行(パンデミック)と戦うには、ゲームチェンジャーたるワクチンの活用が欠かせません。日本は新型コロナワクチンの入手、提供を迅速に行ない、世界的にも新型コロナの被害が非常に小さな国となりました。
本稿執筆時点(2023年4月)で、新型コロナで亡くなった方は世界で685万人以上にのぼります。じつは、おそらくこれも過小評価で、実際にはもっと多くの方が新型コロナで亡くなったであろうことが推測されています。世界でもトップレベルの医学雑誌『ザ・ランセット』に掲載された論文では、新型コロナウイルス感染症、COVID-19で亡くなった方は1800万人以上と推定しています(*2)。
地球上でこんなに短期間にたくさんの方が1つの感染症で亡くなった事例は近年ありません。おそらくは、数千万人が亡くなったといわれる1918年の「スペイン風邪(パンデミック・インフルエンザ)」以来の被害といえるでしょう。