「ワクチンは実験、対策会議はバベルの塔」 養老孟司×宮崎徹のコロナ論_1

 於 鎌倉 養老邸 2021年5月

新型コロナワクチン接種は「壮大な実験」

宮崎 養老先生は、ワクチンの優先接種の対象となる医療従事者には当てはまらないのでしょうか。

養老 当てはまりませんね。だって医療ってものをしたことがないもの(笑)

宮崎 日本で承認されて使われだしたファイザー製やモデルナ製などのmRNAワクチンは別として、アストラゼネカ製のウイルスベクターワクチンは、アデノウイルスに新型コロナウイルスのスパイクタンパク質の遺伝物質を含んだものであり、健康に対するリスクは指摘されていますね。

養老 ファイザーやモデルナのワクチンにしたって、mRNAの「入れもの」になんの害もなければいいけれど。

宮崎 「入れもの」とはリポソーム(細胞膜や生体膜の構成成分であるリン脂質から成るカプセル)のことですね。日本人がリポソームをつくると均質な構造になるらしいですが、アメリカとかでつくるとかなり大雑把な構造になるとも聞きます。それで結構、接種後に痛みが出るとも聞きます。
新型コロナワクチンの有効性については、かなりあると海外の論文誌などでは報告されていますが、インドなどではワクチン接種後に感染爆発が起きたりもしていますし、有効性についてはよくわからないところがありますね。

養老 そう思います。

宮崎 マウスなどで薬剤の感染防御に対する有効性を研究する場合、鼻から大量のウイルスを感染させて、薬剤投与なし(コントロール)で100%近い感染率の状況での薬剤有効性を示さないと、通常なら絶対論文は通らないと思います。ところが今回の治験では、コントロール(未接種群)で数%の感染率しかない状況で、ワクチンによる感染防御率が90何%ということですから、なにをもって有効というべきか疑問ですね。もちろん人間での、しかも緊急性のある臨床試験ですから仕方ないことではありますが。
とはいえ、いまのところはワクチンに頼るしかなさそうですね。

養老 心理的な面も大きい気がします。

宮崎 たしかに。私でも一回、接種すると「部屋に閉じこもっていなくても大丈夫かな」などと思ってしまいます。心理的な安心があると、感染しにくくなるというのもあるかもしれませんね。

養老 「神経免疫」というものがいわれるようになって、神経系と免疫系が影響をあたえ合っているともいうくらいだから、感染しにくくなるんじゃないかな。

宮崎 今回のmRNAワクチンは、かなり前から実験の場では研究者たちに使われていましたが、このコロナ禍で実際にヒトに使われるようになりました。意外なほど、あっという間に使われるようになったというのが私の印象です。

養老 「ものすごく壮大な実験」をしているようなものでしょう。億の単位の人びとが新しい種類のワクチンを接種している。サンプル数はものすごく大きいから、安全性や有効性については、かなりはっきりしたことが確かめられるんじゃないかな。

宮崎 こういった有事でもないかぎりは、これほどまでの「実験」はできませんね。
今後、新型コロナウイルスはどうなっていくか。養老先生の見立てはいかがですか。

養老 ほかの人も言っているけれど、ヒトと共生するような状況になっていくんじゃないかな。感染力はかなり強いので、どの道、相当な数の人類の体のなかにこのウイルスが入っていく。若い人たちなんかは、感染したことに気づかずに過ごすこともあるでしょう。
新型コロナによる死亡率も話題にはなるけれど、どの道、人は亡くなりますからね。なにで死ぬかのちがいだけであって。いまでも、年寄りの直接の死因は肺炎とかの呼吸器系が多い。

宮崎 宿主を殺してしまうと、ウイルスたちは自分が生きられなくなるから、感染力が強まると感染した人の致死率は減るとはいわれていますね。けれども、ウイルスはそんなことまで考えて変異しているのか。

養老 たぶん考えてないでしょう。ただ、感染症のうちエボラ出血熱とかでは、あまりにも致死率が高いので広がりにくいということがあるのはたしかみたいですね。エボラウイルスほど強力なものでなくても、日本では沖縄の西表島とかにマラリアウイルスが蔓延していて、戦時中に強制的に疎開させられた人たちの多くがマラリアに感染して亡くなったりもしました。

宮崎 ウイルスについては「感染力が弱まると弱毒化する」ともよくいわれますが、それは毒性の強い変異体に感染した人たちが次々に死んでしまって、毒性の弱い変異体に感染した人たちが生き残る結果、弱毒性のウイルスだけが広がっていく、という話なのでしょうね。しかし、変異のスピードが速い新型コロナでは、弱毒性のウイルスのなかから、いつ超強力な毒性を持った変異体が現れないともかぎらない。やはり決定的な治療薬は必要だと思います。それも、幅広い変異体に効果のある薬であればさらにいいですね。

養老 治療薬もあるということになれば、安心材料にはなりますね。